ドラフト制度

西武球団のスカウトがアマチュア選手(の家族)に現金を渡していたことが発覚し、「不正の温床である希望入団枠を廃止すべき」との世論が高まっています。これに対し、プロ野球機構の根来コミッショナー代行の「今年は昨年同様、来年撤廃」との意向で結論が出たとのことです。

 希望入団枠の撤廃が先送りされた。21日、都内のホテルで代表者会議が行われ、ドラフト制度について検討された。スカウト活動における西武の不正発覚を受け、希望枠は撤廃する方向だった。だが、フリーエージェント(FA)獲得までの期間短縮をめぐり紛糾。来年からの撤廃は確認されたものの、今秋は希望枠を存続させる方向になった。撤廃を優先させたい球団が多数も、巨人がFAを含めた全体像にこだわり、根来泰周コミッショナー代行(74)がこれに賛同して大勢が決まった。アマやプロ野球選手会と同調してクリーンな球界をつくるはずが、決断力のないプロが台無しにした。
(平成19年3月22日付日刊スポーツから)

不正をなくすというのも大事だとは思うのですが、なんのためにドラフト制度を設けるのかというのも重要なポイントだと思うのですが。
たしかに、現金授受のような「不正」をなくすためには、現金を受け取った球団への入団を約束できるような制度=希望入団枠制度をなくせ、というのはかなりもっともな主張でしょう。

  • もっとも、あらかじめ「意中の球団」を公言し、それ以外の球団の指名に対しては「拒否」するという方法は残りますが。

ただ、現金授受が「不正」なのは、実は「現金授受は禁止」というルールがあるからであり、このルールそのものに対して「どの球団も現金でもなんでも自由に渡せるようにしてもいいのではないか」という意見はありえます(まあ、あまりフェアな感じはしませんが)。選手の「球団選択の権利」「職業選択の自由」を主張する立場の人からすれば、自由競争こそあるべき姿、という考え方もありかもしれません。フリーエージェント資格の獲得に必要な年数(現行9年)を短縮せよ、という意見もそういう観点から出てきているのだろうと思います。実際、プロ野球での実績のない新人に大枚を積むよりは、実績を見てから引き抜いた方が合理的だというのはもっともでしょう。労働組合である日本プロ野球選手会も、希望入団枠廃止とともにFA年数の短縮を主張しています。これは実力を実績で示した選手が高年俸を受け取ってしかるべき(実績のない新人がいきなり契約金で大金を得たり、事前に裏金を受けたりするのはいかがなものか)という「労働運動の正義」にかなうということでしょう。もちろん、FA制度が有力選手の年俸を高騰させることは周知で、そういう点で資金力のある球団(読売ジャイアンツとか)と選手会の思惑が一致しているのはおもしろいところです。
いっぽう、ドラフト制度には「戦力の均衡化」という重要な目的があることを忘れてはならないのでしょうか。プロ野球は相手なくして成り立たないのですから、それなりに戦力が均衡して面白い試合を提供できなければ全体として成立しなくなってしまいます。完全ウェーバー制を主張する球団は、選手の権利より戦力の均衡化を重視する立場といえましょう。また、高年俸と引き替えに出場機会の喪失を甘んじて受け入れる有力選手が増えると、そのプレーを見る機会がなくなるという点で大いに損失となります。
このふたつは全く両立しないかといえば、そうでもないのではないでしょうか。まず、ドラフト制度はやめて自由競争にする。その一方で、球団全体および選手個人についてサラリーキャップを設定する。サラリー以外の提供は(アマチュアへの裏金もふくめ)すべて禁止する。キャップについては必ずしも厳格に運用する必要はなく、米国のように他球団にペナルティを支払わせるという方法もあるかもしれません。これでうまくいくかどうかはわかりませんが…。
まあ、球団経営、リーグ運営などにも関わる問題で、簡単には結論は出ないと思いますが、社会人野球をこよなく愛する私としても気になる問題であり、関係者の善処を期待したいものです。