ホワイトカラー・エグゼンプションの年収要件はいくらが適正か

ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)FAQシリーズ、続けて行きます。

経団連はWEの年収要件を400万円とすることを主張しているそうですが、低すぎるのではないでしょうか?

他の要件と総合的に考える必要がありますので、400万円が必ず低すぎるとはいえませんが、経団連のWEに関する提言では、年収400万円以上であれば労使委員会の集団的手続によって法定の適用対象職務を拡大できるという設計になっていますので、これはさすがに常識的に考えて要件として低きに失するでしょう。
なぜ、経団連がこんな非常識な提言を出したのかは不明ですが、勝手に想像すると、ちょうど研究会などでの議論が始まる時期であったこともあり、以降の審議会などで労使間での交渉、妥協が行われることを念頭において、まずは「高めのボールを投げた」「ふっかけた」というのがありそうです。もちろん、これは連合などが「絶対に認められない」と主張するのと対になっているわけです。結果的に、まったくの推測ですが、経団連がいつまでも表向きは400万円をおろさないので、連合もずっと表向きは絶対反対をおろせなかったということかもしれません。表向きでないところでは、それなりに労使で落としどころを探っていたのではないかと思うのですが(おそらくは、いずれは落とせるところも見つけられたのではないかと思いますし)。
もうひとつは、あまり年収要件が高くなりすぎると中小企業などでは使えなくなってしまうということで、日商や中央会への配慮として低い数字を出し、まずは経営サイドの結束を優先したということもあるかもしれません。実際、700万円とか800万円とかいう数字が出始めると、身内のはずの経済同友会から「年収要件を設けるべきではない」という提言が出てきたくらいですし。
いずれにしても、400万円という数字が一人歩きしてマスコミで喧伝され、WEに対する誤った認識が広がってしまったことを考えると、WEを実現するという意味では、経団連の作戦は失敗であったと言わざるを得ないものと思います。慶応大学教授の清家篤氏は「「残業代ゼロ制度」というのはやや誤解を招く表現です。ただ、これは当初かなり低い年収要件を主張して、そうした解釈の余地を与えた経営側にも責任はあります」と述べたそうですが(平成19年1月28日付日本経済新聞朝刊)、私も同感です。もちろん、最大の責任は国民にウソを垂れ流したマスコミにあると思いますが。
なお、400万円が絶対ダメかというとそうではなく、ほかの要件が適切なものであれば、年収要件は400万円でかまわないということも十分考えられます。たとえば、キャリア官僚のように遠くない将来に高い地位と処遇を獲得することが約束された人であれば、年収要件は400万円でもいいかもしれません。要するに、さまざまな要件をうまく組み合わせて、WEを適用すべき人はなるべく適用でき、すべきでない人はできないようにすることが大切なのです。