裁量労働制があればホワイトカラー・エグゼンプションは不要か

Q.フレックスタイム制裁量労働制があるので、あえて新たにホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を導入する必要はないと思うのですが。

これは、議論の終盤で連合がしきりに強調していた点です。たとえば、昨年6月15日の第9回中執で確認された「労働時間法制見直しに関する労働条件分科会への対応方針」にも「現行の労働時間法制には、変形労働時間制、フレックスタイム制など弾力的な制度が設けられている。また、ホワイトカラーの働き方に対応する制度として専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制が存在しており、労働時間規制を適用除外する新たな制度を創設する必要性はない。」という記述があります。
たしかに、裁量労働制がみなし労働時間制なのに対してWEは適用除外となりますので、法理論的には大きな違いがあるものの、時間割計算に応じた割増賃金の支払いを要しないという現象面では共通しており、一見、実務的には同じようなことにみえるかもしれません。しかし、現実には、裁量労働制とは別にWEを導入する実務的な必要性が存在します。
現行の裁量労働制は、対象業種が法律で定められています。専門業務型であれば「新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学・自然科学に関する研究の業務」などの14業務であり、企画業務型であれば「事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」(で労使委員会で決議された業務)です。
これに該当しなければ裁量労働制を適用できないわけですが、いたって定性的な要件なので、100%自信をもってこれに適合する、と言い切れるケースに限ると、その適用範囲は立法時の想定を超えて、いちじるしく狭いものとなると思われます。とはいえ、それではどこまで範囲を広げられるのかという判断は非常に難しく、現実には「この仕事がこの要件に適合するのかどうか」判断に迷うケースが非常に多くなっているのが実務実態ではないかと思います。実際、労働基準監督官によって判断が違っているという話も耳にするところです。
これに対し、今回のWEは、こうした対象業務の要件はとりあえず一定程度以上の専門性や裁量度を要すれば足り、具体的な判断要素として、年収要件、本人同意、労使委員会決議などの、該当するか否かを容易に客観的に判断できる外形基準を設けているところにポイントがあると思います。つまり、本人のサインがあり、労使委員会などの手続きが尽くされて議事録などが残っていて、年収が一定額を超えていれば、実務家は「この人はWEでいいのか、本当は違うのではないか」といった心配をしなくてすむようになるわけです(これは働く人にとっても同じことで、たとえば本人同意していないとか、年収が一定額以下しか支払われていないとかいう明らかな事実があれば、自分にはWEは適用できないということが明白にわかるということになります)。
このように、制度としての透明性が高く、予見可能性に優れた適用除外制度として、新たにWEを導入する高い必要性があると考えられます。