経労委報告のワーク・ライフ・バランス

もう2週間近く前の話になりますが、経団連が2007年版の「経営労働政策委員会報告」を発表しましたので、ざっと目を通してみました。
当然ながら、経団連の従来の主張の展開が中心ではあるわけですが、今年から経団連会長がキヤノンの御手洗会長、経労委の委員長が東芝の岡村会長と、体制が変わりましたので、内容もそれなりに昨年までとはトーンが異なるものとなっています。
とりわけ今回特徴的なのは、「ワーク・ライフ・バランス」(WLB)と「イノベーション」がキーワードとして強調されているところでしょうか。後者はいうまでもなく御手洗新会長のキャッチフレーズです(経団連会長就任あいさつのタイトルも「INNOVATE日本」でした)。
WLBについては最近あちこちで取り上げられて流行していますが、経団連のいうWLBは「イノベーションに向けて従業員が能力を向上し、発揮するためには、生活ニーズに即した働き方によってやりがい、生きがいを高めることが求められており、そのためにWLBが必要」という書きぶりになっています。したがってWLBは「単に労働時間の短縮や休暇取得に関することではなく、企業労使の、新たな自律的な働き方への挑戦である」であり、「さまざまな雇用形態のもとで、労働時間、休業・休暇、就労場所等の就労条件を多様化・柔軟化させることによって、企業は人材の確保と仕事の効率化、従業員は自己の仕事と生活を調和し、多様なライフスタイルの実践が可能となる」ということになるようです。なるほど、なるほど。書いてはありませんが、当然ながらこれはホワイトカラー・エグゼンプションへとつながっていくわけでしょうね。
私も企業の労務屋なので経団連のこうした主張にはほとんど違和感がない、というか概ね同感なのですが、現実にはこうさらっと書くほど話は簡単ではないだろうと思います。多様で柔軟な働き方でWLBを実現することは望ましいでしょうが、そのときの収入やキャリアがどうなるか、ということが一方の問題としてあるからです。個別にはいろいろなケースがあるでしょうが、一般的には仕事のウェイトが低下すれば、それにともなって業務での貢献度や仕事の内容、能力の伸長も(効率化などである程度カバーするにしても)相応に低下することは致し方ないわけで、それにともなって賃金が低下するのもまた当然のことです(この点、私は労働界などの『時間単価を同じにしろ』という主張には一切与しません)。したがって、経済的な豊かさは多かれ少なかれ低下することは避けられません。あるいは、職業キャリアの形成や上昇もゆるやかなものとならざるを得ないでしょう。それでも、生活のウェイトが高まることで人生全体のクォリティが上がるからそれでいいのだ、と考える人がたくさんいるのなら、経団連がいうようなWLBにも大きな可能性があるかもしれません。当初はあちらもこちらもと欲張って不満だけが残る人とか、やはり生活よりおカネやキャリアアップが大事だという人もたくさん出てきそうですが、続けていくうちには案外新しい価値観を持つ人も増えてくるかもしれません。