パート労働法 その5

今日で最後になります。均衡処遇以外の論点についてです。

3 通常の労働者への転換
 指針においては、通常の労働者への転換のための措置を講ずるよう努めるものとしているところであるが、以下のような実施状況も勘案し、今後のあり方をどのように考えるか。
 ※ 通常の労働者への応募機会の優先的付与等の状況(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 優先的に応募の機会を提供している 16.4%
 優先的ではないが応募の機会を提供している 58.8%
 ※ 正社員への転換制度の有無(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 転換制度がある 48.0%
 ※ 正社員への転換制度・適用事例の有無(事業所ごと・多様化する就業形態の下での人事戦略と労働者の意識に関する調査(平成17年(独)労働政策研究・研修機構))
 転換制度があり、適用事例もある 23.3%

そもそも、なぜすでに職にありついている短時間労働者を失業者より優遇しなければならないのかが不明です。短時間労働者がフルタイムの職につきたいのなら、自ら職安に職探しに出向くとか、就職情報誌を買って読むとかするでしょうし、そこに自社の求人が出ていれば応募するということでいいのではないでしょうか。就労経験があるだけ有利でしょうし、そのほうが労働市場の機会均等という意味で望ましいのではないかと思うのですが…。
また、実際に欠員が出て補充したいというときに、短時間労働者で適任者がいれば、企業とすれば職安に行く前に声をかけそうなものです。パート労働者が基幹的な業務にも進出している流通業などでは、それが活発に行われることから、転換制度があるということではないでしょうか。逆に、適任者がいなければ声をかけることはないでしょうし、職安経由で応募してきても採用されないでしょう。転換制度も同じことで、制度があっても適任者がいなければ実績はともなわないでしょう。新卒採用とか、特定職能を求めての中途採用とかだと短時間労働者に優先的な応募の機会の提供は行わないでしょうが、それは条件にあわないとか、適任ではないという判断が事前にあるからでしょう。
結局のところ、パート労働者の職探しの手間をすこし省いてあげましょうという程度の話で、こうも力んでやらなければならないことなのか、というのが率直な感想です。

4 労使の話合いの促進等
 指針においては、短時間労働者からその処遇についての説明を求められたときには説明するよう努めるものとしているところであるが、以下のような実施状況も勘案し、今後のあり方をどのように考えるか。
 ※ パートから本人の処遇について説明を求められたときの対応(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 求められた内容について説明している 82.9%
 説明を求められたことがない 17.0%

 指針においては、短時間労働者から処遇について苦情の申出を受けたときには事業所内で自主的解決を図るよう努めるものとしているところであるが、以下のような自主的解決の状況も勘案し、今後のあり方をどのように考えるか。
 ※ パートから処遇について苦情の申出を受けたときの自主的解決の努力状況(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 解決に努めている 96.0%

これは最重要のポイントでしょう。前にも書きましたが、結局のところ、職務や人材活用の仕組み等が同じかどうかということは、使用者にしか判断できないはずです。ということは、職務や人材活用の仕組み等が違うから処遇も違うのだ、ということを説明できるのも使用者だけです。逆に、これが説明できないようでは、合理的な人事管理を行っているとはいえないということだろうと思います。もちろん、どれほど説明を尽くしても納得しない人もいるでしょうし、その中には労働審判員や判事の判断を聞きたいという人もいるかもしれません。そうなれば結局は審判員や判事を説得できる説明が求められるわけです。人事管理を高度化するための契機として、法で努力義務化されるのをむしろ歓迎するくらいの意識がほしいものです。
また、紛争の自主的解決についても、実際にほとんどの企業でそれに努めている実態があります。むしろ、自主的解決を第三者機関での解決に前置するような法制化であれば、これまた歓迎すべきものではないでしょうか。

 紛争解決制度について、短時間労働者に対する特別の配慮をどのように考えるか。

これは具体的にどういうことなのでしょうか。公的な「紛争解決制度」はいくつかありますが、特別の配慮といわれて思い浮かぶのは均等法で定められている機会均等調停会議による調停があります。短時間労働者についても同様のしくみを作ろうということでしょうか。とはいえ、機会均等調停会議による調停は年間数件と利用は低調ですし、その内容も配置や解雇に係るものが多いようです。短時間労働者については主に「均衡」に関する紛争が想定されるでしょうが、はたして調停がうまく機能するかどうか。役所の仕事づくりという感もこれあり、労働審判制度もできたことですし、従来の労働局長の助言指導、紛争調整委員会によるあっせんがあれば十分ではないかという気がするのですが。

 現行法において、短時間雇用管理者の選任が努力義務とされているところであるが、以下のような選任状況も勘案し、今後のあり方をどのように考えるか。
 ※ 短時間労働者の選任状況(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 選任している 46.3%
 ※ 平成13年に実施された同旨の調査では、17.4%

4年で17.4%から46.3%ならけっこうな伸びですが、短時間雇用管理者の役割如何によっては、選任を強力に求めるか、制度自体廃止してしまうか、どちらも考えうるのではないかと思います。現状では管理者の具体的な実体のある義務といったものはないはずで、「責任者を決めてしっかり見てくださいよ」「短時間労働者の人事管理にも配慮してくださいよ」という精神論程度のものなら、さほどのコストはかけずに啓発がはかれるということで、あって悪いものではないかもしれません。とりあえず、現状では管理者に対して21世紀職業財団の研修会の案内が出されたりしているようですが、現行すでに法で努力義務とされていますから、やるなら義務化ということになります。まあ、選任されているかどうか確認するというのも容易ではない(役所に届出?)など役所サイドの管理も大変ですし、罰則をつけるような話でもないでしょうから、努力義務のままで問題はないような気がするのですが、どんなものなのでしょうか。