労働時間制度に関する経済同友会の見解

21日の労働条件分科会で労働契約法についても素案が出てきましたので、それに対するコメントも書いていきたいところですが、同じ日に労働法制に関する経済同友会の提言もタイミングよく出てきましたので、労働契約法の話の前に、先日連載した労働時間法制の素案に関する経済同友会の見解についてコメントしてみたいと思います。
まずは割賃の引き上げについてです。

 長時間労働4の対策は非常に重要であるが、時間外労働の割増率の引き上げによって、長時間労働を抑制することができるのかは疑問である。割増率の引き上げが、割増賃金の算定基礎となる賃金を抑えたり、サービス残業を是認したりする方向になっては意味が無い。また、効率良く仕事を進める意欲を低下させてしまう可能性もある。

ご見解のとおりでありましょう。特に、賃金水準による調整は、中長期的にみれば確実に行われるものと思います。結局、長時間労働した人の取り分が増えるという結果になります。

 まず、ワーク・ライフ・バランスや労働者の健康の観点から、長時間の時間外労働が前提となっているような働き方があれば是正し、マネジメントの見直し等、管理をしっかり行うことが先決である。

まあこれもごもっともなのですが、実際には自ら後段で米国の例を引いて書いているように、雇用調整のために一定の時間外労働が必要という部分もあるわけで、そことの兼ね合いは難しいものがあります。まあ、マネジメントの見直しという意味では有期雇用など他の雇用調整手段を拡大するという方法もあるわけですが、それもおのずと上限があると思いますが…。
次にホワイトカラー・エグゼンプションについての記述をみてみます。

 ホワイトカラーの自律的な働き方を可能とする制度(いわゆる日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)については、労働者は裁量を持ち柔軟な勤務時間で付加価値の高い仕事をしながら、より一層の自己実現や能力発揮を行い、仕事の生産性を向上させるとともに、健康確保や生活とのバランスを保つということは、将来進むべき方向としては適正な考え方である。
 しかし、仕事の裁量という点では、仕事の具体的な進め方(手順)について裁量を持つ従業員は多いが、何の仕事をするかという質、量やスケジュール(納期)にまで裁量のある者は多くはないのが現実である。

まさにそのとおりで、だから職務や勤務態様に関する規定、とりわけ権限や責任などに関する規定は訓示的なものにとどめ、原則的に仕事の具体的な進め方(手順)について裁量を持っていれば足りる、とすることが必要になってきます。長時間労働抑止については本人同意、休日確保、一定以上在場したら医師の面接指導、といったものでやっていけばいいわけです。

 論点の中で、「緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者」という定義に合致する対象者は、年齢や資格、年収という基準よりも、仕事の質や種類によって適・不適が判断されるべきものである。一方で、年齢や資格、年収が高くとも労働時間を管理し、その長短によって処遇される仕事もあるのが実情である。
 そうした分類を明確にすることが必要であるが、現行の裁量労働の対象業務はその適用業務が考慮されていることから、まず最初のステップとしては、裁量労働制の一層の活用から進めるべきである。

これも正論には違いないのでしょうが、それができないから困っているわけです。ブルーカラーはもちろん、ホワイトカラーでも営業職やもっぱら補助的・定型的業務に従事する人は対象にならない。それはそれでいいわけですが、それでは残りのホワイトカラーのどこまでを対象とすべきかとなると、職務要件を文章で書くのはたいへん難しいわけです。

  • ただし、勤務の相当部分が事業場外になる営業職については、これとは別にみなし労働時間制を実態に合ったものにしていく必要がありますが。

それが現行の裁量労働制の大きな問題点のひとつで、要件の文章が安全サイドに走りがちなうえ、どこまでいってもあいまいな部分は残るので、予見可能性も低いものとなっています。そこで、職務要件をそれなりに代理する外形的な基準として、年収要件や本人同意といったものを考える必要があるのだと思います。
また、産業や企業、あるいは職種によっても違いは大きいわけですから、一律に法律で書くことに限界があるのは当然で、やはり対等性を担保する簡素な規制を設けたうえで、現場をよく知る労使の当事者が判断することが望ましいわけで、素案にある労使委員会決議がそれでいいかどうかは別として、方向としては間違っていないものと思います。
同友会の言いたいことは、まずは(高すぎる)年収要件を設定するのはやめてほしい、ということで、これはわからないではありません。ただ、年収要件には「これだけの年収があれば、賃金が時間割でなくても保護に欠けない」という側面もあります。当然、これは他の規制、保護策がどれだけ導入されるかにも依存しますから、年収水準問わずということだと、どうしても他の規制が相当厳しくならざるを得ないわけで、裁量労働制規制緩和はそれほど容易なものではないと考えるべきでしょう。

 同様に管理監督者についても、課長や店長といったライン職や、それに相当する権限を持つスタッフ職が存在する実態に照らしてみれば、基準緩和により、所期の目的である自律的な働き方に適う仕事に就く者が、主旨に適った働き方ができると考える。
 休日の確保及び健康・福祉確保措置の実施を担保することは重要であるが、まずは現行制度を活用しながら、長時間労働の是正や仕事の進め方の改革を進めるべきである。企業も従業員も労働時間に関する意識を変えながら、あらためて個々人の成果に結びつく自律的な働き方として、労働時間規制の適用除外の議論を深めていくことが望ましい。

もうひとつ、労基法41条2号を使えば年収要件不要になる、というわけですね。ただ、これについては、現行の労基法や通達、行政解釈などを厳格に適用すると、すでに相当割合の企業で法を逸脱した運用がされているのではないかと思われます(世間でそれなりに敬意を払われているような企業でも、社員の3分の1が管理監督者、などといった例もあるようですし)。現状を是であると勘違いして、さらに基準緩和、ということを考えると大間違いになりそうです。実際、この規定は経営(者)との一体性が相当程度高く、労働時間規制のもとに働くことがなじまない労働者を想定しているわけなので、それほど大きな拡大が期待できるものではありません。分科会に出された素案も「同格以上に位置づけられ」と事実上の年収要件的(といえるでしょうか?)な条件をつけて、良くてせいぜい実態の追認程度にとどまるもののようですし。
これはまったくの推測ですが、同友会としては、ホワイトカラー・エグゼンプションと合わせ技で割賃を引き上げられるのは困る、という考えもあるのではないでしょうか。もちろん、この合わせ技は理屈は合わないわけですが、しかし往々にして行われがちなことでもありそうなので、その心配はもっともです。だから、既存制度であれば取り引きの対象にはならないのではないかということで、裁量労働制管理監督者で対処すればよい、という議論を蒸し返したのではないでしょうか。