公共部門非正規労働者の無期契約転換@韓国

JILPTのウェブサイトの「国別労働トピック」が本日アップデートされておりましたので備忘的に。お隣、韓国の非正規労働事情です(http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2014_6/korea_01.htm)。韓国政府は「公共部門で常時・継続的な性質の業務に従事する非正規労働者6万5711人を2015年までに無期契約に転換する」方針を掲げており、今回、その途中経過が発表されたとのことです。無期転換方針については発表時にやはり「国際労働トピック」で紹介されていますのでご参照ください(http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2013_9/korea_03.htm)。
さて計画は予定以上に進捗しているとのことですが…。

 雇用労働部が公共部門における非正規労働者正規雇用(無期契約)への転換状況を発表
韓国政府の国家政策調整会議(2013年9月開催)において決定した公共部門における非正規労働者正規雇用(無期契約)への転換対策について、雇用労働部は、2014年4月14日、対策後の実施状況を発表した。
 雇用労働部によれば、2014年4月の時点で、公共部門合計で、3万1782人の非正規労働者正規雇用に転換した。正確に言えば、無期契約に転換したということだが、目標値を上回る結果となった。更に、2014年中に、1万9908人を、2015年には1万4899人を転換し、最終目標値である6万5711人の転換の達成を見込んでいる。
…バン・ハナム雇用労働部長官は、「常時・継続的な仕事に関しては正規労働者を雇用するという原則を確実に実行するため、公共部門がイニシアチブをとっていくべきである」と述べている。
…韓国の二大ナショナルセンターはどちらも、否定的な見方をしている。
 韓国全国民主労働組合連盟(KCTU)は、非正規雇用問題の実質的な解決にはつながらないと考えている。実際の現場には、常時・継続的な性質の仕事に、多くの間接雇用の形態が見られる――と述べる。またKCTUの構成組織である保健社会福祉部関係の単組は、無期契約への転換は、「無期限非正規労働者」という別形態の非正規雇用を量産する制度となるに過ぎないと言い、全ての非正規労働者を無条件で正規労働者に転換する必要があると話す。
 韓国労働組合連盟(FKTU)も、政府の対策によって、非正規労働問題が解決するとは考えていない。…次のような考えを示している。
「非正規労働問題には、有期雇用契約の他にも、請負や派遣といった間接雇用の問題があり、こちらの方が深刻である。政府の今回の対策は、間接雇用の問題を除外している。また、企画財政部(日本の財務省に相当)は、公共部門の業務をアウトソーシングして、民間の雇用創出に貢献するよう促進しているが、我々は、真の非正規労働問題の解決のためには、全てを直接雇用としなければならないと考えている」
 韓国の二大ナショナルセンターが、この度の政府の転換対策に対してこのように厳しい評価を与える理由は、韓国における非正規雇用の形態には主に、(1)有期契約雇用 (2)短時間契約雇用 (3)間接雇用(派遣・請負等)――の3タイプがあるが、今回の対策は、単に(1)のタイプを無期契約に転換するにとどまっているためである。また、有期契約を無期契約へ転換したといっても、給与体系等は正規職員と同一化されることになるという保証もないため、韓国の二大ナショナルセンターは、政府の対策は、真の非正規雇用問題の対策と呼べるものからはほど遠いと考えている。
http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2014_6/korea_01.htm

公共部門というのは必ずしも公務員とは限らないのでしょうが、それにしても民間企業に較べたら雇用や人件費の調整に対する財政・経営上の要請はきわめて限られたものでしょう。そこで「常時・継続的な性質の業務に従事」している人たちだというのですから、そもそもどうして有期雇用にしていたのかが不思議です。まあ、正規雇用の人員数は法律なりで決まっているので人員を増やすには非正規で対応するのが手っ取り早いというのは他の国でもありそうな話ですし、おそらくは正規雇用との間に処遇面でも相当の差があるのでしょうから、それを説明する理屈として有期にしていたという面もあるのかもしれません。このあたり私は韓国の事情をほとんど承知していませんので、まったくの想像ですが。
いずれにしてもそうした状況だとすれば無期転換すること自体はそれほど難しい話であるとも思えませんが、いっぽうで仕事そのものは変わらずあるわけですしそれに従事する人は必要なわけですから、「給与体系等は正規職員と同一化されることになるという保証もない」「「無期限非正規労働者」という別形態の非正規雇用を量産する」という結果になることもまあ目に見えていると言えましょう。
政府の「常時・継続的な仕事に関しては正規労働者を雇用するという原則を確実に実行するため、公共部門がイニシアチブをとっていくべきである」というのは、まあ率先垂範ということなのでしょうが、そもそも労働条件や処遇の改善を公共セクターが民間に先行して実施するというのはあまり評判のよいやり方であるとは思えず、しかも今回の場合は仕事も処遇もキャリア形成もそのままでただ無期にすればそれでいいんだもんねということを率先垂範してしまっているという面も否めないようで、なにごとも公務が先行してというのは難しいということなのかもしれません。