日本キャリアデザイン学会研究大会

10月27・28・29日に開催された日本キャリアデザイン学会の研究大会に参加してまいりました。とはいっても、27日のエクスカーションと29日のシンポジウムには本業の都合で参加できず、出席したのは27日の理事会と28日の午前・午後の各1セッション、および総会だけでした。
28日の午前は「非典型雇用のキャリアデザイン」、午後は「女性のキャリアデザイン」に参加しました。お役目として、機関紙に載せる午前のセッションの感想を割り振られましたので、とりあえず書きました。以下に転載しておきます。まだ機関紙は出ていないのでフライングなのですが、まあ許してください。
文中には出てきませんので、まず報告者を書いておきます。

  • 非典型労働から典型労働への転換−コールセンターにおける「正社員登用制度」の事例調査から− 中道麻子 早稲田大学大学院
  • パート労働者の昇格とジェンダー−食品スーパーX社の事例から− 金井郁 東京大学大学院
  • ヘルパーのキャリア形成支援のために:定着促進と中核ヘルパーの意欲向上 堀田聰子 東京大学社会科学研究所助手

 非典型雇用が増加している。多様な働き方を実現するものとして歓迎する声があるいっぽう、不安定でキャリア形成が困難であるとして不安視する意見も多い。この部会では、非典型雇用のキャリアについて3本の報告が行われた。
 中道報告は、コールセンターの非典型雇用について4社の人事担当者から詳細な聞き取りを行い、近年急拡大したこの業界においては各社の人材戦略に大きな違いがあり、それがキャリア形成において重要な典型雇用と非典型雇用との職務の区分、正社員登用制度のあり方と活用などにも影響していることを明らかにした。金井報告は、ある食品スーパーのパートタイマー7人、正社員1人からの聞き取りを通じて、上位職パートの属性やキャリア、仕事振りなどの特徴から、上位職パートが少ない理由を示した。堀田報告は、介護ヘルパーに対するアンケート調査から、ヘルパーに対するサービス提供責任者の人事管理がヘルパーの定着に影響することなどを計量的に検証した。
 いずれも力のこもった報告であり、興味深い知見を含むものであった。聴講者は20人弱と少なかったものの、アットホームな雰囲気の中、一度も発言が途切れることなく、充実した討論が行われた。とりわけ、聞き取り調査を行った中道報告、金井報告に対して、聞き取りの大家である小池和男法政大学教授が「ていねいな調査」と評価したのは、報告者にとって大きな自信となっただろう。
 非典型雇用が、家計補助的な主婦パートなどが大多数を占め、その仕事も補助的、定型的なものが中心であった時期においては、そのキャリア形成が問題となることは少なかっただろう。しかし、近年においては非典型雇用が基幹的な仕事を担うことが増えているし、専門性へのこだわりなどから、あえて派遣などの非典型雇用を選択する人も増えているという。こうした人たちの人材育成、キャリア形成は、企業・個人双方にとって重要であろう。また、90年代後半以降、新卒者などの若年が非典型雇用で就職することも多くなり、こうした人たちの能力向上、キャリア形成の停滞を危ぶむ意見も強い。非典型雇用のキャリアは、かつてなく重要な課題となっている。
 それに対し、非典型雇用のキャリアの実態は、まだ明らかでない部分が多い。新しい形態である派遣労働やインディペンデント・コントラクターなどについては、そもそもまだキャリアの展開自体が短期間にとどまっているだろう。
 非典型雇用はいまや全雇用者の3分の1にも達している。ここには、大きな可能性を秘めたキャリア研究の豊かなフロンティアがあるのではないか。そういう意味でも、きわめて有意義なセッションではなかったかと思う。


感想文は以上ですが、余計なことを付け足しますと、金井報告が最後にインプリケーションとして「正社員を含めて、基幹労働を担うことが家庭生活との両立を満たすことの出来るように、企業論理自体を見直していくことが必要である。」と結んだのは少しがっかりしました。「企業論理」なるものがあるとしても、なにがそのような論理を企業にとらせているのか、とか、仮に「正社員を含めて…両立を満たす」ことができたときの社会や国民生活はどういうものになるのか、というところに踏み込まないと、限界があると思うのですが…。まあ、このあたりは私もまったくわからないところではあるのですが。