キャリア辞典「最低賃金(2)」

キャリアデザインマガジンに書いたコラムの転載です。「最低賃金」は、職種別設定賃金を中心にもう一回書く予定です。

 最低賃金(2)

 最近の動きとは別に、最低賃金(最賃)制度についてはかねてからさまざまな問題意識が示されており、すでに一昨年9月には厚生労働省最低賃金制度のあり方に関する研究会」で見直しの検討が行われ、昨年3月には報告書も発表されている。昨年4月には厚生労働大臣から労働政策審議会最低賃金制度のあり方について検討を求める諮問がなされ、同審議会労働条件分科会最低賃金部会に議論の場を移して検討が続けられている。
 この平成18年10月12日に開催された第14回の部会で提示された資料が厚生労働省ホームページに掲載されており、その「公益委員試案修正(案)」をみると、最低賃金の保障は地域別最賃が果たすものとして、最低賃金法は地域別最賃に特化するいっぽう、産業別最賃は廃止し、別途の法的根拠をもつ「職種別設定賃金」という制度を導入しようとの方向性が示されている。
 各都道府県の地域別最賃は、長らく全都道府県で設定され、毎年一回の改定が定着しているが、実はこれは最低賃金法が求めているわけではない。最低賃金法第16条は「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の事業、職業又は地域について、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るため必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、最低賃金の決定をすることができる。」と定めており、この運用として、全都道府県で地域別最賃が決定されている。今回の「公益委員試案修正(案)」は、こうした現状を追認し、全都道府県における地域別最賃の決定を法定しようということであろう。
 また、この「試案」では、地域別最賃の基本的考え方として「社会保障制度との整合性を考慮した政策を展開する必要がある」と指摘し、具体的には、決定基準について、「「労働者の生計費」については、生活保護との整合性も考慮する必要があることを明確にする。」としている。
 最低賃金制度が事実上一定の救貧政策的性格を持ち、その決定要素として生計費をあげている以上は、社会保障政策との整合性・連携への配慮は必要であろうし、それが具体的には生活保護制度との関係となるのもまた自然であろう。こうした政策提言は、省庁再編の趣旨のひとつとされるいわゆる「縦割り行政の弊害」の排除にも沿っているといえるのかもしれない。いっぽうで、両制度はその趣旨や性格にかなりの違いがあり、「試案」がわざわざ「「労働者の生計費」については」と書いているように、生計費は最低賃金制度においてはあくまで一要素なので、どの程度のウェイトをおくかについては慎重な考慮が必要だろう。両制度の金額水準の単純な比較ではなく、両制度があいまって就労促進のインセンティブとして働くような連携のあり方を検討する必要があるのではないか。