とりあえず「労働ビッグバン」

濱口先生から出されていた宿題です。ゆっくり取り組む時間がないのですが、そろそろやらないと忘れそうなので、とりあえず直観的なところを。まずは、経済財政諮問会議の民間議員ペーパーをみますと、こうなっています。

労働市場の効率化(労働ビッグバン

  • 経済全体の生産性向上のためには、貴重な労働者が低生産性分野から高生産性分野へ円滑に移動できる仕組みや人材育成、年功ではなく職種によって処遇が決まる労働市場に向けての具体的施策が求められているのではないか。
  • 公務員についても公務員制度改革が必要である。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1013/item1.pdf

具体的な施策が書いてないのでなんともいえないのですが、本家本元のビッグバンは証券取引手数料の自由化、わが国の金融ビッグバンは銀行、証券、保険の相互乗り入れの解禁が中心でしたので、おそらくは規制緩和がイメージされているのでしょう。


さて「低生産性分野から高生産性分野へ円滑に移動できる仕組み」というのは解雇規制緩和・労働力流動化路線なのかもしれませんが、これはこのブログでも繰り返し書いているように、私はこれは仕組みの問題ではなく需給の問題だと思います。高生産性分野で労働力の需要が旺盛で、低生産性分野では労働力の供給が過剰なのだとすれば、放っておいてもそれなりに移動は起こるでしょうし、高生産性分野で需要がなければ仕組みがどうであれ移動は起こらないでしょう。「人材育成」がセットになっているのは、「低生産性分野で解雇」→「失業者を教育訓練」→「高生産性分野で再就職」という餅の絵を画いているのかもしれませんが、本当にそんなにうまく行くものか、需給関係をよくよく検証してみないと、失業率が上がるだけの結果になりかねないと思うのですが。
逆に、高生産性分野で本当に需要が旺盛であれば、なにも政府が教育訓練を施さなくても、企業が採用後にみずから必要な教育訓練を行うでしょう(もちろん、教育訓練済の人のほうが再就職に有利になる可能性はあるでしょうが、これも過大評価は禁物だと思いますが…)。
もっとも、本家本元のビッグバンにならって、有料職業紹介の手数料の自由化(これはたしかに多少は労働移動を円滑化するかもしれません)くらいのことであれば、これはあってもいいかもしれません。
「年功ではなく職種によって処遇が決まる労働市場」というのも、具体的なイメージがつかみにくいのですが、経団連も最近は職種別賃金がよいというようなことを言うことがあるようです。まあ、年功によって賃金が決まる労働市場、というのは多くは内部労働市場(典型的なのはその後に出てくる公務員)でしょうが、これを年功ではなく決まるようにしよう、というのはかねてから多くの企業が取り組んでいるところです。もっとも、決め方はなにも職種に限ることはなく、能力や成果であってもいいはずで、そこは企業の勝手、政府の口出しは余計なお世話、といいたくなりますが…。
あるいは、職種別賃金であれば転職にともなう労働条件の変動が小さく、流動化するという理屈かもしれません。しかし、職種別にシングルレートの賃金というのも非現実的なような…実際に海外で職種別賃金になっている職種(すべてが職種別賃金という国はたぶんないと思います)をみると、案外職種別に経験年数のテーブルになっているケースが多いのではないかと思います。となると、これは年功による処遇決定以外のなにものでもないわけですが…。
まあ、この短い記述だけではなんともいえませんが、あまり筋のいいことを考えているわけではないような印象です。