育児休業給付の引き上げもいいかもしれないが

昨日の日経新聞によると、厚生労働省少子化対策として育児休業給付の一段の引き上げを検討しているそうです。

 厚生労働省は会社員の育児休業取得率を引き上げるため、2007年度から雇用保険に新たな支援制度を設ける方針を固めた。企業が育休をとる社員への経済的支援を手厚くした場合に雇用保険の財源で助成する仕組み。育休前賃金の4割となっている雇用保険助成額を最大7割まで引き上げ、企業による独自支援と合算して賃金の全額補償にも道を開く。企業による社員への育休支援強化を促し、仕事と育児を両立しやすい環境を整える考えだ。
 雇用保険には「育児休業基本給付金」などがあり、育休をとる人は原則4割の賃金が補償される。ただ収入減少などの経済的な理由で出産をためらう人も多い。
 新しい制度は雇用保険の4割補償に上積みして経済的支援をする企業が対象。育休社員に対して3カ月以上にわたる支援を企業が実施する場合に、雇用保険が大企業にはその半分を、中小には3分の2を助成する。新しい助成分は育休前賃金の3割を上限とする。
…現制度の4割補償と合わせ新しい制度では雇用保険が実質的に最大7割を負担することになる。企業負担の3割分の上乗せと合わせて賃金が全額補償される計算だ。
(平成18年10月17日付日本経済新聞朝刊から)

まあ、少子化対策として育児休業中の所得補償をすることは必ずしも否定するものではありません。企業による支援とのマッチングで制度設計することもひとつのアイデアとしてありうるでしょう。しかし、この案にはかなりの疑問を感じざるを得ません。


最大の疑問点は、これを雇用保険財政、しかも雇用保険三事業の財源で実施するという点です。もともと、育児休業給付については「育児休業を取得せずに退職していたとしたら給付されていたであろう失業給付」を育児休業取得者に給付するという理屈で、当初25%で設定されていました。この限りであれば、たしかに育児休業給付を雇用保険財政で実施するのも一応は納得できるものだったといえます(ただし、失業給付に比べて国庫負担割合が低い点には疑問が残りますが)。ところが、その後育児休業取得促進のためにということで、これが現行の40%に引き上げられました。この時点で、少なくとも上積みされた分は雇用保険の財源で給付する理由はなくなっているはずです。もちろん、育児休業を取得するのも給付を受けるのも雇用者に限られるわけですが、少子化対策の成果は社会全体が受益するわけですから、労使のみが費用を負担する雇用保険を財源にするのは不合理です。
さらに今回は、事業主だけが保険料を負担している雇用保険三事業を財源にしようというのですから、ますます負担と受益の関係が崩れることになります。まあ、企業の支援とのマッチングなので、企業の福利厚生の助成であり、したがって事業主がその財源を負担してもいいのではないか、という理屈かもしれませんが…。そもそも、三事業が見直しを求められている中で、それを財源にして新たな事業をやろうという発想があまりよろしくないようにも感じます。
また、賃金の全額補償をめざすという発想も明らかに行き過ぎです。育児休業期間中については、本来のルールどおり社会保険料を支払わせると、その負担が重いことから育児休業の取得が抑制されるとして、社会保険料の支払が免除されています。賃金を全額補償してしまうと、社会保険料が免除されている分だけ、就労しているときより収入が多くなってしまいます。まあ、それもひとつのインセンティブだという考え方もあるとは思いますが、それはあまり筋のよくない発想でしょう。
最初に書いたように、こうした支援策はありうるものだとは思います。ただし、それは雇用保険ではなく、一般会計で実施するのが筋というものだと思います。