不法移民の合法化

 米国で「不法移民の就労合法化」をめぐる議論が激しくなってきた。ブッシュ大統領が提唱した一時労働許可制度の新設に下院は反対の立場で、上院は共和党が賛否両論に分裂して三つどもえの状態。1,200万人とされる不法移民は国内の経済活動に不可欠になっているうえ、政治的な思惑から大物議員が次々と論議に参戦し、11月の中間選挙の争点になりつつある。
 「重要なのは米国人がやりたがらない仕事をする人々が米国にいる、ということだ」「包括的な法律が必要だ」。3月31日、ブッシュ大統領は北米首脳会談後の記者会見で強調した。
 大統領の移民政策についての「包括的なアプローチ」は、国境警備の強化、不法移民や雇用主の取り締まり強化、米国にいる不法就労者に期限を区切って就労を認める一時労働許可制度(ゲスト・ワーカー・プログラム)の三本柱。これに対し下院は昨年12月に規制強化だけを盛り込んだ法案を通過させた。一方、上院司法委員会は一時労働許可制度を取り込んだ法案を可決。審議の舞台は上院本会議に移った。
 上院で一時労働許可制度を推進する中心勢力は、共和党のマケイン議員と民主党ケネディ議員。上院では「不法移民への『恩赦』は認められない」「一時労働許可は恩赦ではない」と、一日の審議で30回以上も「恩赦」という言葉が飛び交う応酬があった。
 米国でヒスパニック系(中南米からの移民とその子孫)はすでに経済活動で重要な一翼を担っており、経済界には移民雇用の制度化を支持する声が強い。一方で「治安が悪化する」「米国文化が失われる」など反対論も国内には多く、共和党は二つに割れている。
(平成18年4月2日付日本経済新聞朝刊から)

不法移民の就労合法化といっても、国籍や永住権を与えるというわけではないようです。とりあえず不法移民を即座に国外退去させるのではなく、期限を切ってその間は働くことを認め、それまでに合法状態になりなさいということで、不法移民がただちに合法移民になるわけではないようですから、たしかに「恩赦」ではなさそうです。
日本でも同様ですが、ある種の労働については外国人に頼らざるを得ない実態があるわけで、この「一時労働許可制度」は、外国人労働が必要であれば不法なままに一時的に就労を認め、必要な間だけ許可期間を延長し、必要なくなってくれば不法だから国外退去させることができる、という、米国にとってはなかなか好都合な制度なのかもしれません。外国人にとっても恩恵があるのだからいいではないか、という理屈もあるかもしれませんが、そうした労働を外国人に頼らなくてすむように、労働環境や労働条件を改善していくという、本来あるべき取り組みが後退するようだと問題ではないかと思います。