「仕事や責任に差がなければ」

今朝の朝日新聞で、社員とパートの賃金格差の調査結果が報じられていました。

 正社員と同じように働くパート労働者に対し、正社員の賃金水準と比べ7割以下しか支払っていない企業が28%に達していることが、21世紀職業財団の実態調査で分かった。同水準だった企業は、7分の1程度に過ぎなかった。パート労働者は全国で約1200万人に達し、年々増加。責任ある仕事を任される傾向が進む一方で、待遇面に格差が残る現状が浮き彫りになった。
 厚生労働省は03年に改正したパートタイム労働指針で、仕事や責任に差がなければ正社員と同等に処遇するよう企業に求めている。同省は「賃金を7割以下にしている企業は悪質。指導を強化したい」としている。
 仕事内容が正社員とほぼ同じで、人事異動の頻度や責任の重さも同じような「正社員的パート」がいる事業所は35.7%。管理職やグループリーダーなどに登用している事業所は10.5%あり、サービスや販売の職種で多かった。
(平成18年2月20日朝日新聞朝刊から)

記事には「仕事が正社員と同じパート労働者の賃金」のグラフも掲載されていて、それによると「ほぼ同額」14.5%、「9割程度」12.8%、「8割程度」24.4%、「7割程度」19.9%、「6割程度以下」8.5%、無回答19.9%となっています。


記事は「仕事や責任に差がない」と書いていますが、じゃあ能力はどうなるんだ、という話に当然なるわけで、実際にはパート指針は「人材活用の仕組みや運用などが実質的に異ならない」という表現をしています。さらに、実質的に異ならないかどうかは、「人事異動の幅・頻度、役割の変化(責任・権限の重さの変化)など、労働者が時間的経過の中でどのような職務経験を積む仕組みがあるのかということと、その仕組みが実際に運用されているか実態をみて判断」としています。要するに「それ以外は全部同じなのに、労働時間が違うだけ」ということでしょう。また、「同等に処遇」ではなく、「処遇の決定方法を合わせる」などの措置を講じた上で、「意欲、能力、経験、成果などに応じて処遇することにより、正社員との均衡の確保を図るように努める」としています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/bukyoku/koyou-l/10.html
限られた紙幅ですから制約はあるでしょうが、朝日の読者というのはこういう記事をうのみにするのでしょうか?まあ、こういう記事を読みたい人が朝日を読むのでしょうが。それはそれとして、こうした背景をよく承知しているはずの厚生労働省が、この結果について「賃金を7割以下にしている企業は悪質。指導を強化したい」としている、というのはちょっと信じられません。とりあえず厚労省のサイトをみるかぎり大臣会見や次官会見でこうした発言があった形跡はないので、独自取材によるものなのでしょうが、多くの職員の中にはこう答える人もいるのでしょうか。
思わず不毛な朝日批判になってしまいましたが(笑)、私が書きたかったのは、はたしてこれに回答した人たちが「それ以外は全部同じなのに、労働時間が違うだけ」ということをきちんと理解して回答しているのかどうかは疑わしいのではないか、ということです。役所の外郭団体の調査なので、おそらく指針の表現そのままを使っているのではないかと思いますが、忙しい実務家がそれをきちんと読んでしっかり理解して正確に回答しているかどうかというとはなはだ怪しいものがあります。手早く(いいかげんに)回答すれば、おそらくは低く出るでしょうし、この手の調査はこうした点を考慮に入れて見る必要があるのではないかと思います。