賃上げは若手より高齢者?

これは昨日の朝日新聞朝刊から。これまたけっこう驚きです。

 今春闘で3000円の賃上げ要求を決めている鉄鋼2位のJFEスチール労連は、獲得した財源の8割を主に50歳以上の熟練社員に重点配分する要求の具体案を固めた。56歳以降は役職から外れて賃金が下がるなどの現状を是正する。同労連が加盟する基幹労連(369組合)は3000円の統一要求を掲げているが、一定の年齢層に重点配分する要求は珍しい。

 56歳になると役職を降りる制度があり、仕事給は約10%減額される。労連は「職場を活性化するには、ベテラン層への手厚い配分が長年の課題」としていた。
 3000円に相当する原資のうち、56歳以上に1700円分を充てる…若手からは反発も出ているが、「50歳を超えたときに恩恵が得られる」などと説得しているという。
(平成18年2月7日付朝日新聞朝刊から)

新日本製鉄労連や三菱重工労組などは、年齢層による要求の差は設けず、社員の資格や職務などで決まる仕事給の底上げを求める考え」だということですから、JFEスチール労連の取り組みはなかなか異色です。


今回の春闘では、労組サイドも従来一般的だった「ベア」という言葉を使わずに、「賃金改善」ということが多くなっています。これは、「ベア」には「全員一律の水準向上」という印象があり、経営サイドの拒絶感が強いことから、必ずしも一律の底上げにはこだわらない、配分に関しては柔軟に対応するという意味合いではないかと言われています。
実際、これまでも昇給原資を傾斜配分は(労使協議・合意のもとに)現実には行われてきていて、その多くの場合は、住宅や教育に費用のかかる30代〜40代に手厚く配分し(これは労組のニーズに近い)、あわせて賃金カーブを寝かせて年功色を薄める(これは経営のニーズに近い)、という形で行われていたように思います。今回、労組が配分面で柔軟に対処することで賃金原資の拡大をはかろうというのであれば、常識的にはこうした路線を採用するのが賢明な作戦のはずでしょう。
それでもなお、高年齢層への配分を重視する姿勢に出たのは、56歳での役職定年、賃金ダウンが相当のモラルダウンにつながっているという現実があるのでしょうか。もっとも、3000円の要求は平均では1%程度でしょうから、1700円を配分したとしてもせいぜい2%強くらい(実際にはもう少し低いと思う)の改善で、「10%減額」に較べるとかなり小さなものですが、それでも意識面での効果はけっこうあるかもしれません。
いずれにしても、役職をはずれたことによる賃金ダウンを穴埋めするために昇給原資を傾斜配分するとなると、理屈上は職務や貢献度にもとずく賃金決定とは逆行することになりかねません。はたして、これは経営の理解を得られるのでしょうか?まあ、わが国の中でもとりわけ労使関係が成熟し、安定している鉄鋼業界ですから、すでにかなりの程度労使間で共通認識ができているのかもしれませんが…。