公務員の労働基本権

今日の新聞各紙は、きのう開かれた「政労協議」について報じています。どうも首相(と連合会長)が出席しないと「政労会見」とは言わないようです。今回は小泉首相は出席していないので、バランス上(?)高木会長も出席していません。

 政府と連合は16日、都内のホテルで公務員制度改革をめぐる「政労協議」を行った。政府側は、公務員にスト権などの労働基本権を付与するかどうかについて連合との協議に応じる考えを表明。連合側も政府の「行政改革の重要方針」に盛り込まれた国家公務員純減などについて「適切に対応したい」(古賀伸明事務局長)として、政府との協議に臨む姿勢を示した。
 中馬弘毅行革担当相は協議で、国家公務員純減について「出血整理はしない」と述べ、新規採用の抑制や配置転換への理解を求めた。さらに、労働基本権の付与に関し、「幅広い観点から検討したい」と協議に応じる考えを示した。古賀氏は「基本権の付与は喫緊の課題」と述べ、3月にも協議を実施するよう求めた。
 労働基本権の付与について、政府内では「スト権などが政治活動目的に利用される危険性がある」(行革推進事務局幹部)と、否定的な認識が支配的。ただ、自民党武部勤幹事長が基本権付与に前向きな姿勢を再三訴えているほか、安倍晋三官房長官も「これからまさに議論をしていかなければならない問題だ」と積極的に議論していく考えを示していた。
(平成18年1月17日付産経新聞朝刊から)

とにもかくにも、協議が行われるということは大切ですし、それなりに論点も整理されたのではないかという印象です。


政府は、分限免職などは行わず、自然減と配置転換とで純減を進める意向のようですから、一応雇用は守られるということでしょう。もちろん、自然減も配置転換も働く人に負担となる話ですから、労使で十分に話し合いながら実施していくことが望ましいことは言うまでもありません。
ただ、だから労働基本権の付与を、というのはまた別問題でしょう。もちろん、人員減や配転に関する協議は、対等性確保のために交渉権や争議権を確保したうえで行われることが望ましいというのは正論ではありますが、それがなければ協議ができないというものではないことも事実でしょう。公務員の雇用保障は公務員法上は中立性確保のためであって、労働基本権制約の代償というわけではありません(世間ではそういう議論も多々あるようですが)から、雇用保障(人員確保や配置転換も広くみれば雇用保障といえるでしょう)がなくなるからただちに労働基本権が回復するというものではありません。
公務員の労働基本権が制約されているのは、それが国民生活に多大な影響を与えるからであり、それを付与するには、付与しても国民生活への影響が軽微である(それにより保護されるべき公務員の利益が、国民が受ける不利益を上回る)ことが必要だろうと思われます。これは絶対的なものではなく、労使関係の実情に大きく依存するでしょう。
それでは、いま基本権を付与したらどうなるか、ということを考えると、現状の官公労組の実態をみるかぎり、報道にもあるように「スト権などが政治活動目的に利用される危険性がある」などと考えざるを得ないでしょう。国家公務員の純減に対しても、具体的には小規模な定員減や配置転換に対してもいたずらに争議を多発させて抵抗するといったことが発生して、少数の公務員の比較的大きくない利益のために国民生活が多大な不便を被る(これは、税金が引き続き非効率に使われるという意味で国民に二重の不利益をもたらします)ということが起こらないとはとても言い切れないのではないでしょうか。ましてや、今回は国家公務員の話(だけなのかどうか知りませんが)としても、それが地方にまで波及したとしたら大変なことになるという心配をせざるを得ません。
私は、官公労組が公務員らしく国民の利益を考えて、財政の状況や民間地場の雇用・労働条件なども考慮した、現実的で、納税者からみて合理的な判断と行動ができる、という信頼を獲得しない限り、労働基本権の付与は無理ではないかと思います。まずは、労働基本権なしで、今回の国家公務員の純減をはじめ、市場化テストや民間にはないような手当や福利厚生の廃止などなど、国家・地方を問わず、財政再建につながる効果的な施策を実施し、実効を上げることが先決であり、それによって「もう基本権を付与しても大丈夫」という信頼感が確立されてから、実際に付与する、というのが手順というものでしょう。
もちろん、そのためには、合理化を進める行政当局の側にも相当の努力が必要であることは言うまでもありません。地方自治体で不透明・不適切な手当の類が乱発されているのは、労組の要求とラスパイレス指数抑制の要請との間に立って、安易な妥協を繰り返してきた行政当局の責任もあるのではないかと想像されます。現場を良く知る労務管理の専門家を計画的に育成し、官公労組としかるべく対峙し対話し、労使関係を安定的に維持できる体制を構築することが不可欠となりましょう。これは公務員の人事制度全体にかかわる問題かもしれません。