韓国の労組専従者

週末の日経新聞から。お隣の国、韓国の労使関係事情です。

労組専従者、会社からの給与支給を原則禁止へ 韓国政労使合意

 韓国の労働省、労組の全国組織である韓国労働組合総連盟(韓国労総)、経営団体である韓国経営者総協会は4日、政労使協議を開き、労組専従者に対する会社側からの給与支払いを原則禁止する制度を来年7月から施行することで合意した。一方、一つの会社に複数の労組の存立を認める制度については2012年7月まで延期する。
 両制度は関連法が今年1月から施行される予定だったが、労働界から反対が強まり政治問題化していた。韓国企業の国際競争力強化を目指す李明博(イ・ミョンバク)政権は行き過ぎた組合活動を抑えたい意向。給与問題は半年遅れながら新制度施行への道を開き、一定の前進を得たといえそうだ。
 与党ハンナラ党は政労使合意に基づき年内に関連法の改正に取り組むとみられる。ただ複数組合制度は既存組織の弱体化につながるとして産別や単組に反対論が強い。施行まで時間があり、労組側が今後巻き返す可能性もありそうだ。(ソウル=尾島島雄)(04日 23:47)
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20091204AT2M0403C04122009.html

わが国では労組法2条で「団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの*1」を労組法上の労働組合ではないとし(2号)、7条では「労働組合の結成、運営を支配介入し、又は労働組合に対して経理上の援助をすること」が不当労働行為とされており(3号)、労組の専従者に賃金が支払われるということはまずまず考えにくいものと思われます。これに対し、韓国では団体交渉を通じて労働組合が企業から専従者の賃金を「勝ち取る」ことは労働組合運動としてありうるものだと考えられているのでしょう。韓国中央日報紙の日本語サイトの記事(http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=120618&servcode=300§code=300)によれば、韓国では日本に較べて労組専従者がかなり多いとのことですが、これも企業からその賃金を「勝ち取った」結果であると思われます。専従者が増えれば労働組合活動が活発化することは容易に想像できます。
いっぽう、Livedoorニュース経由での朝鮮日報紙によれば、韓国の労組専従者の賃金は労働者平均の2倍とか(http://news.livedoor.com/article/detail/4484010/)。けっこうなご身分だということではありますが、とはいえ韓国では労使の対立は強く、争議行為なども頻発しているところをみると、高額賃金によって労組執行部と企業経営者が癒着しているかというと必ずしもそういうわけでもなさそうですから、これも「勝ち取った」成果だといえばいえるのだろうと思います。それにしても、このデータは日本でいえば経団連にあたる全国経済人連合会(全経連)の調べというのが面白いところです。しかも、韓国には日本の旧日経連にあたる韓国経営者総協会(韓国経総)がありますので、日本でいえば旧日経連をさしおいて旧経団連が調査して発表したということになります。まあ、だからなんだんだと言われれば特にどうということもないのですが。
もし、ここで企業からの賃金支払が禁止されると、それは即座に労組の財政問題につながることになります。ちなみに韓国の組合費は対賃金比で日本の半分以下ですが、専従者の人件費を組合費で負担するとなると、当然ながら相当の値上げは避けがたいでしょう。
ということで、複数組合制度については、労組としてみれば使用者よりの第二組合ができて組織が切り崩されることを警戒するのは当然ですが、韓国労働界の一部では現実に組合活動、とりわけ専従者への大打撃となりかねない賃金支払禁止を回避できるのであれば、複数組合制度の継続は容認してもいいという本音の議論もあったとか。まあ、いかにもありそうな話ですが、当局がそれに乗るかどうかという問題以前に、「労働者平均の2倍」という実情の中でこうした取り引きに組合員の理解、納得が得られるかどうかという問題もあったのかもしれません*2。いずれにしても今回合意に達したということですので、はたして専従者の動向はどうなるのか、賃金引下げ、人員減、組合費値上げの組み合わせになるのでしょうが、今後が注目されます。

*1:ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする、とされています。

*2:まあ、組合員としても組合費値上げが避けられるという面ではメリットも大きいでしょうが。