日経少子化連続シンポジウム

今朝の日経新聞に、2面見開きでこの1日に開催された「少子に挑む」連続シンポジウム第3回のもようが特集されています。「重み増す企業の役割」と大見出しにあるように、今回は仕事と育児の両立がテーマとなり、論点満載です。パネリストは橘木俊詔京大教授、佐藤友美子サントリー次世代研究所部長、松田聡松下電器女性躍進本部事務局長、モデレーターはICU教授の八代尚宏氏です。きょうはそのなかからこの部分を取り上げてみます。

松田 意欲ある人の能力は男女で差はない。ただ女性は出産の時などでサポートが必要。三カ月や一年間休むから女性は使えないと判断するのではなく、長い目で見る評価が必要だ。
佐藤 フランスでは育児休業を取らない女性が多い。フレックス制などで様々な働き方ができるからだ。仕事の質と労働時間は必ずしも一致しない。様々なチャンスを生かし、一人ひとりの能力を生かすことが大事だ。
八代 子供を持ちたくても持てないという背景には、子供を育てるために休暇を取ると仕事を失うかもしれないといった労働市場の硬直性がある。多様な働き方を認め、個人の能力に応じて評価すべきだ。
…男性も女性も育児休暇を取っても不利にならない環境づくりが大事だ。会社にとっても多様な社員を生かし、育児休業を福祉ではなく投資という考え方でとらえることが重要ではないか。
(平成17年12月5日付日本経済新聞朝刊から)

これらの意見には大筋として賛成します。そのうえで、いくつかの論点を。


まずひとつは、松田氏の発言は明らかに相当の長期雇用を念頭においている、ということです。原則最長3年の有期雇用で「一年間休むから女性は使えないと判断するのではなく」という議論は当然成り立たないでしょう。続く佐藤氏の発言も、「休まずに働き続ける」ことを言っているということは、やはり長期の雇用を前提としているのではないでしょうか。
八代氏の発言はやや微妙なところがあり、「労働市場の硬直性」「個人の能力に応じて評価すべき」とのことばには、「処遇が能力主義労働市場が柔軟で転職が一般的なら、育児で一時的に離職しても再就職が容易なので問題ない」というありがちな考え方があるのかもしれません。が、そうでないかもしれません。
はたして長期雇用慣行を維持したままでいくのか、労働市場のあり方を変えていく必要があるのか?もちろん、育児との両立以外にも多岐にわたり非常に大きな影響のある問題ですので、この議論は簡単ではありません。
もうひとつ、このブログでもたびたび話題にしている、キャリアとの関係があります。「仕事の質と労働時間とは必ずしも一致しない」とか、「育児休暇を取っても不利にならない環境づくり」といった発言には、「勤務時間短縮や育児休業を利用しつつ、キャリアも伸ばしたい」との意図があるのでしょう。もちろん、育児休暇を取ったらそれっきりキャリアアップの機会がなくなる、というのでは大問題で、人材活用という点では企業にとっても損な話です。このかぎりにおいては、「福祉ではなく投資」との八代氏の指摘はまことにそのとおりです。
ただ、これが「トップを走りたい、先頭集団にとどまりたい」ということになると、一気に困難は大きくなります。もちろん、「仕事の質と労働時間とは必ずしも一致しない」のであり、育児休暇を取ってもトップを走るという稀有な人もいるでしょう。とはいえ、やはりほとんどの場合は、相当期間の育児休暇を取ればキャリアのスピードはその分遅くなるというのが普通だろうと思います。これについては、はっきり言ってしまったほうがいいのではないか。キャリアは先頭集団でなくとも、そのかわりに育児で人生の充実を得るという選択をするということで、それもまた立派な生き方、人生のキャリアとして尊重される社会をつくる必要があるのだと思います。私は個人的には、こちらのほうが労働市場のあり方を変えることよりはるかに大事なのだと思います。
橘木氏はこのシンポジウムの別のところで「スローライフ」を提唱していますが、スローライフにおいてはキャリアもスローキャリアということが多いのではないでしょうか。