消費税は本当に逆進的か

現在販売されている「論座」12月号に、阪大の大竹文雄教授・小原美紀助教授の師弟コンビ(「弟」というのも変ですが)による「消費税は本当に逆進的か」という論文が掲載されています。それによると、見方を変えれば消費税は逆進的ではなく、むしろ累進的であることが統計調査から確認できるといいます。
そのポイントを私なりに要約するとこんな感じでしょうか。

  1. 総務省「家計調査」で所得階級別の消費税負担率を見ると、逆進性が認められる。これは所得の低い人ほどその多くの割合を消費にあてざるを得ないからと考えられる。
  2. ただし、現時点での高所得者も、高齢者となって引退すれば所得は少なくなる。しかし彼らは豊富な貯蓄を取り崩して消費にあてる。したがって、税負担の公平性を考えるときには、ある一時点ではなく、生涯所得に対する負担で考える必要がある。
  3. 総務省「全国消費実態調査」で生涯所得に対する消費税負担率をみると、高生涯所得者ほど税負担が高くなっており、むしろ消費税は累進性が認められる。累進度は所得税ほど高くないが住民税と同程度である。これは、生涯所得が高い人ほど生涯通じては消費性向が高くなるためと考えられる。

生涯所得が高い人ほど消費性向が高い=貯蓄率が低いというのは直観的には違和感もありますが、予備的貯蓄(万一の必要のためにしておく貯蓄)はある一定程度あれば十分なので、それが確保されれば(かつての)高額所得者は老後も貯蓄を取り崩して豊かな消費生活を送るのだ、と考えれば納得がいきます。こうした消費のなかには、消費税負担をともないつつ、一面で貯蓄類似の性格を持つ消費、たとえば貴金属や家作の購入といったものもふくまれるでしょう(寄与度はたいしたことなさそうですが)。
著者はさいごに「基礎年金を消費税で全額賄うという案については、消費税の逆進性そのものが深刻な問題でない以上、真剣に検討してみるべきではないだろうか。」と結んでいます。実際、社会保障改革の議論のなかで、基礎年金財源を全額消費税でまかなうという案はかなり有力だと思われます。これに反対する人は、その大きな根拠として「消費税の逆進性」をあげることが多いわけですが、この論文はその論拠がかなり怪しいということを指摘したといえそうです。
もちろん、それでもなお、生涯でみた消費税負担率がある程度累進的であるとしても、これが所得再分配、応能負担の観点からみて「十分に」累進的かどうかという問題は残るでしょう。しかし、著者のいうように、それは従来いわれているほどには「深刻な問題でない」ことも間違いないのではないでしょうか。であれば、やはり著者のいうとおり「基礎年金を消費税で全額賄うという案については…真剣に検討してみるべき」だろうと思います。