連合総研『労働契約法私案』

連合総研の「労働契約法制研究委員会報告書」ということで、書店で売られている本ではないらしく、「はまぞう」でasin記法を引っ張ってくることができませんでした。いずれ市販本になるかもしれません。連合(総研)はときどき、「関係各位」との送り状つきで本を送ってくれます。ありがとうございます。
さてこの本ですが、「ワークルールの確認とさらなる充実を求めて」という副題がついています。先般行政の研究会報告が出たのを受けていま審議会で検討中の「労働契約法制」について、連合総研の研究会が試案を作成した、というものです。内容的には「ワークルール」(という和製英語の意味するところは必ずしも判然とはしないのですが)の確認と充実、という副題のとおりで、事実上の実体規制が大半ですし、強行法規性も強い印象で、「契約法制」というよりは労働基準法の強化という感じです。もちろん、それが悪いというわけではなく、そういう考え方もあろうかと思います。


連合総研の案ですから当然のことながら労働者保護が非常に強力で、ごく大雑把に割り切って言ってしまえば、「全員が終身雇用で、賃金は年齢(生計費)ごとに一律の時間給」という世界が想定されているような印象を受けます。「多様性」についても労働者が自由に選択し使用者はそれを受け入れなければならない、という考え方のようです。(繰り返しますがごく大雑把に割り切った私の印象です。)
もちろん、審議会で労使で議論しましょうという段階なのですから、当然ながら現実世界における今後の互譲や妥協を織り込んで「強硬な」ものになることは理解できます。実際、それは経営サイドも同様で、この6月に出された経団連ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言などはもっととんでもなく「強硬な」ものです。
それでも、正直いってこういう法規制になったとしたら、企業経営や人事労務管理はどうなるのだろう、と考えると、率直なところ想像つかない、という感はあります。これは「交渉ごとだから」というだけではなく、法学者だけの研究会なので、法理論的整合性がもっぱら念頭におかれ、経済活動との相互関係に考慮があまり及んでいないという事情もあるのかもしれません(これは、部分的には行政の研究会にも該当しているかもしれません)。
ただ、これを読んでいて私がいちばん感じたのは、どうして経団連(なり他の経済界)からはこうした立法論的な提言が出てこないのだろうか、という点です。経団連は本年版の「経営労働政策委員会報告」をみるかぎりでは「労使自治と契約自由の考え方に立った労働契約法制は必要」という立場をとっていますし、しかも行政の研究会報告には批判的(審議会での検討の前提とはしない、との立場のようで、これは連合と共通しているようです)なのですから、自前の対案を示すことは建設的な議論を進めるうえでも、自身の主張を実現するためにも重要なのではないかと思うのですが。法学者による検討が経済活動との関連について考慮が不十分(と経団連も主張していると思いますが)であるとすれば、そこを補うのはなにより経済団体ではないかと思います。まあ、民間企業からの会費で運営されている経済団体には、なかなか資金的にも時間的にも余裕がないのだろうとは思いますが・・・。