労働条件分科会、再開のめど立たず

今月初め、労働契約法制を検討している労働政策審議会労働条件分科会が、厚生労働省が提示した中間とりまとめ案に労使双方が反発してストップしてしまいました。重要な内容であるにもかかわらず、本日の日経新聞をみると、再開のめどは立っていないようです。

 労働ルール改革を話し合う労働政策審議会厚生労働相の諮問機関)の分科会で、予定していた7月中の中間取りまとめが困難になった。厚労省側が示した素案に労使が反発し審議会が一時中断。18日に予定していた審議会は中止に追い込まれ、今後の予定も立たない。ただ厚労省は来年の通常国会への法案提出という当初目標を変えておらず、…
 事態を打開するため厚労省は今月中に「有識者の委員(公益委員)と企業側委員」「公益委員と労働側委員」の二つの会談の場を設け、労使の委員から直接意見を聞く方針。
 会談では今後の議論の進め方を協議するほか「労使委員の意見を集約し、新たな素案作りも視野に入れている」(厚労省幹部)。会談の具体的日程は今後詰める。
(平成18年7月19日付日本経済新聞朝刊から)

そもそも労働契約法は長年の懸案であり、とりわけ近年就労形態の多様化や人事管理の複雑化によって個別労使紛争が増加していることや、その解決のための労働審判制度のスタートといった背景を考えれば、労働契約についてなんらかの立法は必要なのではないかと思います。現状はまことに憂慮すべき状況と申せましょう。


なにに反発しているかは労使で違いがあるようですが、経営サイドとしては割増賃金率の引き上げや代償休日、年次有給休暇の退職時買い上げなどの露骨な画一的規制強化への反発が強いようです。長時間労働は問題ではないというつもりはありませんが、人事担当者の実感としても今回の厚労省素案に盛り込まれた規制強化はおよそばかげたもので(これは以前のエントリで書きました)、経営サイドの反発はまったくもっともと思えます。
昨年9月の「労働契約法制の在り方に関する研究会」報告書では、労働基準法について、本来最低基準規制の法律になじみにくい契約に関する規定は労働基準法から労働契約法に移すことが提起されていました。加えて、労働契約に関するルールが整備されることで、労働時間規制についても個別契約(本人同意)、労使自治にもとづいてより柔軟な働き方を可能としていくべきとされていたのではないかと思います。これは「労働契約法制」の検討という意味ではまことに適切であったように思われます。
ところが、報告書が労働時間制度については別途検討として、これについての研究会が別に立ち上がったところから話がおかしくなったような気がします。厚生労働省がこの研究会に、「労働契約法制の在り方に関する研究会」報告書が指摘していた「創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への対応」から逸脱して、長時間労働やら年次有給休暇やらを抱き合わせにしました。まあ、労働時間や年休取得が適正であることも創造的・専門的能力の発揮には必要だという理屈かもしれませんが、これ以降今回の素案にいたるまで、出てきたものをみると後になるほど直接的・画一的な規制色が強くなっています。労働サイドの歩み寄りを求めるためのサービスということかもしれませんが、厚労省が悪乗りして「規制強化したい」という本音を出したという印象もあります。
繰り返しになりますが、長時間労働が問題ではないというつもりはありませんが、とりあえず健康被害の予防をめざした改正労働安全衛生法が先般施行されたこともあり、長時間労働の議論は労働契約法の議論が終わってから別途実施すればいいのではないでしょうか。厚労省が労働契約法が重要かつ喫緊の政策課題であると本当に考えているのであれば、「在り方に関する研究会」の議論に立ち戻って、おかしな規制強化は切り離して、労働契約法(創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への対応をふくむ)の議論にまずは集中すべきではないでしょうか。