21世紀政策研究所報告書『新しい雇用社会のビジョンを描く』

21世紀政策研究所主任研究員の細川浩昭さんから(だと思うが他の執筆の先生方のどなたかかもしれません)、21世紀政策研究所の研究プロジェクト「日本人の多様な働き方」の報告書『新しい雇用社会のビジョンを描く−競争力と安定:企業と働く人の共生を目指して−』をお送りいただきました。ありがとうございます。
すでに21世紀研のウェブサイトにも全文が掲載されているようです。
http://www.keidanren.or.jp/21ppi/pdf/thesis/110530_01.pdf
この研究プロジェクトのシンポジウムがすでに21世紀研新書としてまとめられていることは以前ご紹介しましたhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110408#p1http://www.21ppi.org/pocket/data/vol10/index.htmlで全文が読めます)。
周知のとおり21世紀研は経団連シンクタンクであるわけですが、このプロジェクトの研究主幹は東大社研の佐藤博樹先生であり、委員は細川さんのほか阿部正浩先生、大内伸哉先生、駒村康平先生となっていて、福井秀夫先生とかではないんですね。阿部先生や大内先生はまあそうかなという感じとしても、研究主幹の佐藤先生と駒村先生は連合総研の研究プロジェクトでも活躍しておられるわけで、経団連も世間で思われているほどには自由主義規制撤廃路線でもないよというところでしょうか。
内容的には、それぞれにニュアンスの差はありますが、基本的には佐藤先生が主張しておられるような、多様な雇用形態、働き方を可能とし、それぞれの間でキャリアの接続が可能になるような雇用慣行・労働市場・労働法制が必要だ、といった論調は共通しています。まあこのあたりは労働研究者の間ではほぼコンセンサスとなりつつあるのでしょう。
その中で細川さんが執筆された第2章はなかなか面白く、上記のような労働市場・働き方の多様化から離れて、創造性が発揮される働き方という観点から労働時間制度と人材育成を論じておられます。細川さんご自身の実感がこめられた文章をぜひお読みください。私も非常に同感する部分が多いのですが、しかし特に人材育成の部分なんかは、おまえが言うかおまえが、という反応を招きやすいのかなあ…。
さてこの報告書の最大の特徴は連合の逢見直人副事務局長が執筆者に加わっていることで、これは21世紀政策研究所の立派な見識であると思います。そういえば私も連合総研の研究プロジェクトのメンバーに入れてもらったことがあったなあ。そういう観点で非常に面白く感じたのは、私が連合総研のプロジェクト報告で書いたことと、逢見さんがここで書かれていることは、もちろん中身は大きく違いますし向いている方向も逆なのですが、「そこまでやらなくても・そこまでやらないほうがいいのでは」という基本構造は同じなのですね(http://rengo-soken.or.jp/report_db/file/1245653189_a.pdfの最後に私の文章がありますので、その最初と最後を逢見さんの文章と比較していただければと思います)。現状のしくみにはたしかに問題もあるけれど、労使で苦心して作り上げたものだから、それなりにいいところもたくさんある。悪いところを直そうと大きく手をいれてしまうと、いいところも失われてしまう危険性があるから慎重に考えるべきだ、という理念自体は共有されています。