そんなイメージを受けますが・・・。

今回の衆議院選挙について、内田樹さんが毎日新聞に載せた解説があちこちで話題になっているようです。

 小泉首相のこの「先手必勝」の手法には若い有権者に強くアピールする要素があったように思われる。それは「負け犬を叩く」という嗜虐的な傾向である。
 自民党の若い公募候補たちが党公認を得られなかったベテラン政治家を次々と追い落としてゆく風景に若い有権者はひそかな快感を覚えたはずである。
 「弱者は醜い」、「敗者には何もやるな」。これが今回の選挙を通じて小泉首相有権者に無言のうちに告げたメッセージである。そして、この「勝者の非情」に有権者たちは魅了されたのである。
(「内田樹の研究室」から。http://blog.tatsuru.com/archives/001227.php

なるほど、こういう見方もあるのでしょうか。私にはよくはわからないのですが、事実関係でちょっと気になることがあったので調べてみました。


気になったのは、「自民党の若い公募候補たちが党公認を得られなかったベテラン政治家を次々と追い落としてゆく」ということが本当に起こったのだろうか?という点です。たしかに、そんなイメージだけはありますが・・・。
今回の選挙で郵政民営化法案に反対して自民党の公認を得られなかった前自民党議員が小選挙区で落選し、自民党の公認を得た対立候補(いわゆる「刺客」)が当選した選挙区が13あります。全部書き出すと以下のとおりです。左から選挙区、小選挙区で落選した郵政民営化反対議員、当選回数、当選した自民党公認候補の順で、(公)が公募候補、括弧内の数字は年齢です。

東京10 小林興起4−小池百合子
静岡7  城内実1−片山さつき
岐阜4  藤井孝男4−金子一義
大阪2  左藤章2−川条志嘉(公35)
奈良2  滝実3−高市早苗
鳥取2  川上義博1−赤沢亮正(?44)
福岡10 自見庄三郎7−西川京子
青森4  津島恭一2−木村太郎
埼玉11 小泉龍司2−新井悦二
福井1  松宮勲2−稲田朋美
京都4  田中英夫1−中川泰宏(公53)
島根2  亀井久興4−竹下亘
鹿児島3 松下忠洋4−宮路和明

そもそも、公募候補が反対議員を破って当選した選挙区は2つしかありません。公募かどうかの判断はhttp://www.jimin.jp/jimin/jimin/sen_syu44/block.htmlによりましたが、http://www.nikkei.co.jp/senkyo/200509/elecnews/20050912d1e1200812.htmlにも同旨の記事がありますからたぶん間違いないでしょう。ちなみに赤沢亮正氏に(?)がついているのは、自民党鳥取県連の公募に応募したとの報道があるためで、一応赤沢氏も公募といえるかもしれないためです(ちなみに、ここに掲載したその他の当選者には、地方の公募に応募との報道は私がみたかぎり見当たりませんでした)。
そして、赤沢氏を含めた3人が破った前職は、当選1回が2人、当選2回が1人です。国政に関してはベテラン、とはいえません。もっとも、川上氏、田中氏は県議の経験がありますので、政治家としてはベテランといえるでしょう。
また、内田さんは「次々と追い落としていく」と書かれていますから、必ずしも公募候補自身は当選しなくとも、反対議員が落選していればこれに該当するといえるかもしれません。そこで、反対議員も自民党公認小選挙区で共倒れした選挙区をみてみます。どの反対議員も比例復活していませんから、これは「追い落と」されたといえるでしょう(そういう意味では、上のリストのなかで比例復活した滝実氏や亀井久興が「追い落と」されたかどうかは微妙なところです)。

北海道10山下貴史1−飯島夕雁(公43)
滋賀2  小西理2−藤井勇治(公55)
大分1  衛藤晟一4−佐藤錬
奈良1  森岡正宏2−鍵田忠兵衛

山下氏も小西氏も地方政界の経験はないようですので、ベテラン政治家とはいいにくいようです。
あと、内田さんは「若い公募候補」と書いておられますが、まあ衆議院議員で40代なら文句なく「青年政治家」で通用するでしょう。ただ、「若い有権者」がひそかな快感を覚えた…というからには50代まで「若い」といえるかどうか。今回の選挙では自民党の候補者、当選者ともに平均年齢は約53歳ですから、それとの比較でも53歳の中川氏、55歳の藤井氏は「若い」とはいえないでしょう。
こうしてみると、内田さんのいう「自民党の若い公募候補たちが党公認を得られなかったベテラン政治家を次々と追い落としてゆく風景」は、事実としては存在しなかったと言わざるを得ないのではないでしょうか。もちろん、だから内田さんの所論全体に影響があるわけではありませんが・・・。


ついでに、「負け犬を叩く」という意味では結果的に民主党も同じようなところがありますから、小選挙区で当選したほかの自民党公募候補が民主党の誰を破ったかもみてみました。反対議員が民主党議員に変わっただけであとは上の表と同じです。

埼玉15 高山智司1−田中良生(公41)
神奈川9 笠浩史1−山内康一(公31)
神奈川14 藤井裕久5−赤間二郎(公37)
東京4 宇佐美登2−平将明(公38)
東京20 加藤公一2−木原誠二(公35)
愛知8 伴野豊2−伊藤忠彦(公41)
大阪7 藤村修4−渡嘉敷奈緒美(公41)

なるほどこちらはみんな若い。そしてここでは、神奈川14区の赤間氏が民主党副代表、元大蔵大臣の藤井裕久氏を破るという大金星をあげています。大阪7区で渡嘉敷氏に敗れた藤村氏も地味ですがベテランには違いないでしょう。もっとも、藤村氏は比例で復活していますので、やはり「追い落と」されたとはいかないかもしれません。
さらに範囲を拡大すると、小選挙区で落選した民主党の大物議員を破った自民党候補は、

大阪8 中野寛成大塚高司(41)
滋賀1 川端達夫上野賢一郎(40)
宮崎1 米沢隆−中山成彬(62)
山形1 鹿野道彦遠藤利明(55)
東京1 海江田万里与謝野馨(67)

こんなもんでしょうか。公募ではありませんが大塚氏、上野氏は若く、やはり大金星といえるでしょう。もっとも川端氏は比例で復活しています。
こうしてみると、自民党の公募候補、若手候補の活躍はなかなかめざましく、一方で郵政反対ベテラン議員や民主党の大物の落選も目立っており、その双方が現実に小選挙区で重なりあうことは実は少なかったのですが、しかしイメージとしては重なりあってしまうということなのでしょうか。