本田先生、そりゃあんまりです。

きのうの朝日新聞朝刊に、本田由紀先生の「フリーター・ニートは投票に行こう」という呼びかけのインタビューが掲載されていると聞いたので、読んでみました。
議論の本筋についてはそうだろうな、と思うのですが、企業についての言及は、人事労務に携わる身としてはまことに残念なものです。

…若者は、過重労働を強いられる正社員と安価に使い捨てられるフリーターらに分断されてもいる。企業によって「分割統治」されているのだ。そこでは互いに対立を強いられがちで、労働者としての利害が一致しにくい。
(平成17年9月7日付朝日新聞朝刊から)

はあ「分割統治」ですかそうですか。


もちろん、企業は正社員も採用すればフリーターも採用します。企業には多種多様な仕事がありますから、それぞれの仕事に応じた人を採用し、育成して配置していくわけです。将来の経営層、幹部、熟練工を長期的に育成することも必要ですし、需要変動に適切に対応するための人材を確保することも必要です。
とはいえ、企業の経営者にしても人事部長としても、「若者を正社員とフリーターらに分断している」という意識はないと思いますが。ましてや、若者をマスまたはクラスとしてとらえてそれを「統治する」などという意識はさらさらないと思うのですが。企業がそれなりに合理的だろうと考えて行っている人事管理が、「結果として分割統治しているのだ」という理屈もありうるのかもしれませんが、だったら「企業によって「分割統治」されている」という書き方はちょっと・・・。
ましてや、そこでは(というか、そもそも分断も統治もないのだから、「そこ」自体がないわけで、まあ企業の現場、くらいに考えておきましょう)「互いに対立」しているわけでもなく、ましてやそれを「強い(誰が?)られ」るということもありません。正社員とフリーターがともに働く職場はそこらじゅうにありますが、彼らが常にいがみあっているかといえば決してそんなことはなく、むしろほとんどの場合はそれなりに仲良くやっています(もちろん、そうでない職場もあることは承知しています)。人間関係ですから、それなりに葛藤もあるでしょうし、仕事や処遇などの違いにもとづくそれもあるでしょう。しかし、一般的に「互いに対立」しているとか、誰かが(あるいはなんらかの構造が)対立を「強い」ている、とはおよそ考えられません。これまた、表面的な仲良さとは本質的に異なる対立を若者自身も気付かぬうちに強いられているのだ、ということなのかもしれませんが・・・。

  • 「ましてや」からここまでの段落の書き方がまずく、読み手に誤解を与えたようです。いいたいことは、「企業が分断や分割統治を意図していて対立を強いているというけれど、現実には現場では対立させるどころか仲良くやらせているではないか」ということなのですが、ことばを端折りすぎて(特に段落はじめの「というか、」ではじまる括弧の部分)、分断そのものを否定しているように受け止められても仕方なかったように思います。実際には、分断そのものはあるわけですし、あるものをないというつもりはまったくないのですが。(9月9日追記)

まあ、朝日の記者がインタビューして構成したものらしいので、朝日バイアスがかかっているのかもしれませんが、こんな(大)企業悪玉論をぶってみたところでなんの解決にもならないと思うのですが。ぶちたいからぶっているのだろうな、朝日は。
朝日はともかく、本田先生は人事管理論が専門というわけではないでしょうから、この部分については誰かがそんなことを言っているのを引用して言っておられるのではないかと想像します。で、私の印象としては、教育学や教育社会学の人で、そういうことを言う人が案外多いような気がします。おそらく、こうした分野で影響力のある「大先生」的な人?がそう言っているから、みんなそんなもんだと思ってそう言っているのではないかというのが私の山勘による推測です。そんなことないかな。
しかし、一度でも虚心に企業の人事管理の現場をいくつか見てもらえれば、そんなのは何かが生んだ虚構、幻想に過ぎないということはすぐにわかっていただけると思うのですが・・・人事担当者だって従業員のためにマジメに仕事をしているのだし、なるべく多くの若者を正社員採用して長期的に育成したいと思っているのに、「分断」して「分割統治」して「対立を強い」ている、なんてアシザマに書かれちゃうってのも・・・orz