2001年8月24日 太田聰一「若年失業増に対策急務 不本意就業を削減

太田聰一「若年失業増に対策急務 不本意就業を削減 訓練充実や企業に優遇策」2001年8月24日



玄田有史『仕事の中の曖昧な不安』が出るのがこの年の12月で、若年雇用問題がようやく注目されはじめた時期でした。

 (1)若年失業者やフリーターが急増している原因には若者に良質の仕事が提供されず、不本意な就業を迫られていることがある。若者が職業能力向上に打ち込む機会を奪われており、長期的にみて大きな社会的損失をもたらす。
 (2)不良債権の処理に伴う中高年の雇用対策に目を奪われがちだが、今後は若年層を見据えた雇用政策を打ち出すべきだ。政策的課題としては、雇用機会の創出、ミスマッチの解消、教育・訓練機会の拡大が中心となるだろう。
(平成13年8月24日付日本経済新聞朝刊から)

この時期、この段階ですでにこれほどにまともな意見が表明されていたにもかかわらず、今日に至るまでいまだに「若年失業は若者自身の問題」という議論がまかり通っているのはなんなんでしょうね。

 不良債権の最終処理に伴う失業問題がクローズアップされ、とくに勤務先のリストラによって離職する中高年には再就職のための援助を含めて、手厚い安全網を整備すべきだと主張されることが多い。
 雇用政策の視点が中高年対策に偏りすぎてはいないだろうか。若年の失業やフリーターの急増という、日本経済の将来に大きな影響をもたらす問題が深刻化していることにも、早急な政策的対応が求められる。

 若者問題では「今の若者は違ってしまった」という意識変化を強調する見解が必ず登場する。親と同居して豊かな生活を支えてもらえるから「切実に」「生活のために」仕事を探すことがなく、「自分に合った職」「プライドの保てる職」にこだわって就職せず、自分に向かないと感じた仕事はやめてしまうとする。
 この見方によれば、若年失業は「ぜいたく失業」か「すねかじり失業」となる。フリーターの増加も、条件の良くない正社員になるよりフリーターを選ぶ若者が増えたからとなる。
 こうした見方は一見わかりやすいが、統計データを見る限りは新規学卒者の就業意識が趨勢(すうせい)的に低下している証拠は見当たらない。
 新卒者がすぐに正社員とならなかった理由を調べた黒澤昌子氏(明治学院大学)と玄田有史氏(学習院大学)の研究によれば、九〇年代を通じて新世代ほど仕事へのこだわりが弱くなった事実は確認できない。同時に、卒業後に正社員にならなかった若者の理由では「就職口がなかった」が増加していた。
 若年の非正社員化の背景として重要なのは、就業意識の変化よりも正社員の就業機会が減ったことにある。就業機会が減れば、離職率も減少するのが普通であろう。ところが、若年層の自発的離職率は増加傾向にある。これはなぜか。
 この逆説を解くカギとなる概念が「世代効果」である。企業は不況期に新規学卒者の求人を減らす。このため学卒者にとって自分の希望通りの仕事や適性に合った仕事を発見する可能性が小さくなる。たまたま不況期に学校を卒業した世代では、不本意な仕事に就く人が多くなるわけだ。
 そうなると、不満を抱えている人が離職する可能性が高まり、将来の離職率が上昇する。世代効果が存在するならば、長期不況の下で労働需要が回復しないにもかかわらず若者の離職率が上昇することになる。
 筆者によるものも含めた最近の研究では、このような効果が存在すること、そして近年における若年離職率上昇のかなりの部分がこの効果によって説明できることが確認されている。不本意な就業のせいで離職が増えれば、転職に失敗し失業する者も増加する。
 フリーターも不本意な就業の一形態である。問題は、本人がフリーターになるときに不本意就業と自覚していないことである。しかし、実際には二十歳代も後半になれば、七割近くの男性フリーターは正社員になりたいと希望するようになる(リクルート・リサーチの調査による)。知らず知らずに不本意就業に陥っているのが現状である。
 フリーターの増加は、企業が人件費の削減のために正規従業員を非正規従業員で代替していることによる。アルバイトは短期的な就業形態であり、企業も定着性を求めていないことから、フリーターの増加は離職率、ひいては失業率を押し上げる効果をもつ。
 世代効果の存在とフリーターの増加が示唆することは、若者が従事している仕事の質が従来に比べて変化しているということである。変化していないにもかかわらず、親からの援助が期待できるなどといった理由でまじめに仕事をするのを拒んで失業しているのであれば、疑いもなくぜいたく失業であろう。
 しかし、現実には仕事の質は変化しており、それが若年の失業増に寄与している状況を考えれば、ぜいたく失業と決めつけるのは酷だ。しかも、ぜいたく失業というレッテルは、「若年の失業に政策的な対応をする必要はない」という議論に結びつきやすい。
 これまでも「若いうちの失業は天職探しのための投資」「扶養義務を負っていない若者の失業は深刻度が低い」「未熟練の若者の失業は社会的コストが比較的小さい」などと、行政は若者よりもむしろ中高年の失業対策に力を入れてきた。
 だが、将来のわが国の経済を支えるのは今の若者たちであり、彼らが自分の職業能力向上に打ち込むことができる環境を整えることは、日本経済の成長への投資にほかならない。
 高い若年失業率やフリーターの問題を放置すれば日本経済の活力は近い将来失われてしまうだろう。今こそ、若年層を見据えた雇用対策が求められている。
 具体的にはどのような対策があるだろうか。
 第一は、若年に対する良質な求人を増やすような政策である。正社員として雇用した企業を賃金補助や社会保険料の軽減など優遇措置の対象とする案が考えられる。フリーターを正社員にした企業に、そのような特典を与えることもできよう。ただ、このことが中高年の雇用を減少させる可能性があることには注意を要する。
 数年の有期雇用制度を一般職種に拡大することも、若年雇用の増加に有効であろう。
 第二は、若年求職者と仕事との「ミスマッチ」を軽減するような政策である。就職情報をもっと詳細で広範なものにして、若者が求人内容についてより正確に理解できるようにする。在学中の生徒に対しては、早期から自らのキャリアについて考えさせるような取り組みも必要であろう。
 中学校、高校などについては、生徒の適性をもっともよく知っているはずの教師が就職希望者により効果的な就職指導をできるように、マッチングの成功をもたらす指導内容を吟味すべきである。フリーター志望の生徒には、フリーターを続けた場合には将来の生活設計に支障をきたす可能性が大きいことについて、客観的な調査にもとづいた資料を用いて詳しく説明することも大切だ。
 第三は、若年者に対して十分な教育訓練の機会を提供することである。現行システムの問題点は、在学している限りは学校の援助がある程度期待できるものの、いったん学校教育システムの枠から出てしまうと就職を手助けする制度が乏しいということである。若年失業者やフリーターに対しては、今後の日本経済を背負う人材となってもらうために、長期にわたる無料の高度職業訓練を提供することも考えられる。
 未来を背負う若者こそ雇用政策の中心に置くべきではないだろうか。

非正規雇用の増加は人件費削減というよりはフレキシビリティ確保の側面が強いだろうということと、対策がまだ労働市場のサプライサイドに偏っていて、良質な求人を増やすための適切な経済・金融政策運営の必要性が強調されていないことには不満がありますが、それを除けば全体にまことに正論でありましょう。で、サプライサイドへの政策提言は実はそれなりに実現している部分もありますし、それなりに効果も出ているでしょう。しかし、やはり最重要だったのは需要拡大につながる施策であったことが、現在に至って判明したといえるのではないでしょうか。