またも出た!典型的日経病!

今朝の日経新聞は、「成果主義が広がり、企業の満足度が一段と高まった」という記事を掲載しました。

 企業や個人の業績を反映する成果主義型賃金制度が広がり、同制度に対する企業の満足度も一段と高まっている。日本経済新聞社が実施した2005年賃金動向調査最終集計では、過去一年間に成果主義型の制度を導入・拡大した企業は全体の28.0%。制度に満足する企業の割合は約四割に達し、成果主義を強化する動きが活発になっている。
 回答企業の86.7%が職務給など成果主義型の制度を賃金体系に取り入れている。前年調査に比べ5.1ポイント上昇した。一方、成果主義そのものを見直すと回答した企業は3.3%。年功序列型の制度を再評価する動きはほとんど見られない。
 導入した成果主義型賃金制度に対し、「かなり満足」との回答が7.3%、「やや満足」が32.5%と、前年よりそれぞれ0.6ポイント、3.0ポイント高くなった。不満の割合は4.5ポイント下がり20.5%となり、満足と答えた割合の約半分にとどまった。成果主義への理解が深まり改善に努めたことが満足度の向上につながった。
(平成17年5月18日付日本経済新聞朝刊から)

いやはや、相も変らぬトンデモ記事で、記者があまりに無知なのか、それともわかっていて事実をねじまげているのか、いずれにしてもマスコミとしては深刻な問題だと思うのですが、なんとも思っていないのでしょうか。まあ、記事にするくらいだから平気なんでしょうね。感じない奴にはかなわんよ。


まず、「企業の満足度も一段と高まっている」のだそうです。「かなり満足」が0.6ポイント、「やや満足」が3.0ポイント高まったというのですが、数字そのものをみると「かなり満足」+「やや満足」が36.2%から39.8%に上がったにすぎません。「一段と高まっ」た、というのは、「もともと高かったのがさらに高くなった」という意味のはずですが、36.2%で「もともと高かった」というのはいかにも無理ではないでしょうか。
それから「成果主義を強化する動きが活発になっている」というのも、いささか理解が浅いように思われます。記事にもあるように、企業が「成果主義への理解が深まり改善に努めた」ことは間違いなく、それが満足度の向上につながっているのもそうだろうなと思いますが、問題はその中身です。たとえば、一部の企業では成果主義をやりすぎて失敗し、「プロセス重視」などに舵を切りなおしているわけですが、これはまさに「成果主義の改善」であり、こうした動きについて「成果主義を拡大した」と回答している企業もかなりあるのではないでしょうか。「拡大」=「強化」であるというのは若干短絡だろうと思います。
また、満足度が高まったのは「改善」の結果であるというのはいいのですが、「改善」には「さらに進める」と「行き過ぎを戻す」の両面があるわけですから、「強化」が満足度を高めた、と云わんばかりの書き方には疑問があります。
さらにとんでもないのは、「成果主義そのものを見直すと回答した企業は3.3%。年功序列型の制度を再評価する動きはほとんど見られない。」という記述です。そりゃ、「成果主義『そのもの』を見直す」か、と問われれば、「見直す」と答える企業はないに決まっています(そういう意味では、それでも3.3%もの企業が『そのもの』を見直す、と回答したことのほうが、私には驚きです)。成果主義『そのもの』は見直さないまでも、行き過ぎている部分は改める(年功序列型を再評価する)ことを考えている企業は多いのではないでしょうか。100%年功序列にするのでなければ「再評価」ではない、したがって再評価する動きは見られない、という考え方はいささか誇張が過ぎるのではないでしょうか。
そもそも、賃金制度を見直すのは経営上かなり重要な判断のはずで、それなりの時間とコストをかけて取り組むことのはずです。であれば、従業員はともかく、実施した会社はそれなりに高い満足を得ていなければ、なんのためにやったのか、ということになりかねません。記事は満足が増えたとか不満の二倍だなどと述べて「成果主義はやはりすばらしい」と言い張りたいようですが、しかし、「満足」の水準は4割にも達していません。手間とカネをかけて4割以下しか満足していないのでは、やはりやり方がおかしいのではないかと考えるのがむしろ常識的ではないかと思うのですが、どんなもんなんでしょうか(もちろん、望ましい賃金制度は企業によってさまざまでしょうから、個別にみれば成果主義が大いになじむ企業も相当数あることは間違いないとは思います。念のため)。