榊原清則「キャリア転機の戦略論」

1年前だったら絶対に買わなかった本だと思いますが、日本キャリアデザイン学会に関わるようになってからというもの、この手の本が妙に気になります。専門書と違って、こういう本が良くも悪くも世間の「キャリア」に対する意識をつくるのでしょうから。
著者は泣く子も黙る大物経営学者ですが、キャリアに関心をお持ちとは意外でした。ただ、これはリクルートの雑誌に連載されたものなのだそうで、どことなくリクルートらしい人選という感じはします(どこが?)。書名はなかなか意欲的?ですが、内容は海外でのキャリア事例集という感じで、事例は著者が英国の経営大学院に在職した当時の学生たちということですから、いろいろ身の上話?を聞いてノートしておいたものなのでしょう。これらの事例から科学的になにかの結論を得ることはできないでしょうし、したがって「戦略論」については貧弱な感がありますが、体験談集としてはなかなか興味深く読めるもので、英国キャリア事情の本としては貴重かもしれません。
個人的には、長期雇用(というか、新卒から一つの会社に長く勤め続けて)で幹部に上り詰めるという事例もひとつ紹介されていたのはバランスが良いなという印象をうけました。あと、いささか著者は強調しすぎの感がありますが、たしかに日本でももっと社会人が大学院で学ぶということが増えてもいいだろうとは思います。
たぶん半年くらい積読になっていたと思うのですが、読み始めたら短時間で読めました。ちょっと言葉が悪いですが、時間つぶしの読み物としてはなかなかいい本かも。

キャリア転機の戦略論 (ちくま新書)

キャリア転機の戦略論 (ちくま新書)