日本の「熱意ある社員」5%

 先週の話になりますがギャラップの「グローバル職場環境調査」が発表され、日経電子版がさっそく記事にしておりますな。

 米ギャラップが13日まとめた「グローバル職場環境調査」によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合が日本は2022年で5%にとどまった。サンプル数が少なくデータがない国を除けば、調査した145カ国の中でイタリアと並び最も低かった。4年連続の横ばいで、世界最低水準が続いている。
 世界平均は23%と21年比2ポイント上昇し、09年に調査を始めて以降最高となった。調査した「従業員エンゲージメント」は働きがいを構成する主要な指標で、数字が高いと社員がより主体的に仕事に打ち込んでいることを示す。企業の業績や生産性、離職率などに影響を与えるとして、投資家からの注目度も高い。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF131HN0T10C23A6000000/

 元ネタはこちらになります。
www.gallup.com
 米国についてのサマリーはこちら。
https://www.gallup.com/394373/indicator-employee-engagement.aspx
 さて日本のEmployee Engagementの5%というのが低い低いと言われればまあそのとおりでしょうが、それほど大事なものだと言うわりには全世界平均が23%というのもずいぶん低くねえかという気もするわけです。なぜかと思ったらそれもそのはず、元ネタを見るとわかりますがこれ(たぶん)5段階評価で最高の「Strongly Agree」と回答した人の比率なのですね。となると、人事評価で中央化傾向が問題になる日本では「Strongly Agree」がとても低くなるだろうなというのは、とりあえず直観的にはそう思うわけです。たた、どこかに中央化傾向の国際比較が転がっていないかと思って少し探した限りでは見つからなかったので、特段根拠のある話ではないのですが、それにしてもこの手の調査に対する国民性の違いというのはありそうな気がします。一方で日々のストレスについては42%と高い数字が出ているのですが、これは米国サマリー(https://www.gallup.com/394424/indicator-employee-well-being.aspx)を見ると「Very often/Always」という選択肢を選んだ割合であり、これならまあ「いやー毎日毎日くたくたですわあはははは」という回答が多くなるのもわかるような気がします。
 そこでEmployee Engagementに戻りますと、なぜかリージョン別の表しかないので見落としがあるかもしれませんが国別の最高値はマリの47%であるらしく、続いてセネガル41%、モンゴル38%、エルサルバドル37%、ルーマニア35%というのがベスト5のようです。一方で一部の皆様が大好きな北欧諸国をみるとスウェーデン21%、デンマーク20%、ノルウェー20%、フィンランド14%と軒並み世界平均を下回っているわけで、いやまあ日本よりはるかに高くて羨ましいという話かもしれませんが、しかし真剣に国別に比較して優劣を論ずることができるようなデータなのかねこれ。いかにも国民性のバイアスが強すぎるんじゃないかと思うのですがそうでもないのかなあ。ちなみにイタリアが5%というのは記事中にありますがフランスは7%、イギリスは10%、オランダでも14%だからな。
 なので問題視するなら数字そのものの国際比較(低さ)より、世界平均が着実に上昇している(2020年にガクンと低下しているのはたぶんコロナの影響)のに対してわが国はわずかながら低下している(まあ誤差の範囲という感もありますが少なくとも上昇してはいない)というところだろうと思うわけです。もっともこれも「Agree」が伸びているかもしれないわけで、記事(インタビュー)中にも日本のLoud Quittingは減少しているとありますのでその可能性も十分ありそうな気がします。
 そこでギャラップ社の偉い人が日経のインタビューに答えていろいろコメントしておられるのですが、まあ経営者の意識とか管理職の研修とか、コミュニケーションとか褒めるとか強みを生かすとか、「社員に仕事を任せて管理していく方が生産性も高まるし、離職率も下がる」とかたいへんにもっともだと思います。ちょっと目をひいたのがそれに続けて「何をしてほしいか、何を期待しているか分からないような指示ではダメ」と言っておられることで、いや欧米のジョブ型雇用ではそのあたり職務記述書に明記されているはずで「何をしてほしいかわからない」とはそもそもならないのではないかと思うわけです。このあたりはたぶん欧米でもホワイトカラーの職務記述書はブロードバンド化が進んでいて「何をしてほしいか、何を期待しているか」は都度1on1とかで伝えないとはっきりしないという状況になっているということなのでしょうか。
 でまあギャラップのCEOがいたって月並みなこらこらこら、いや前述のとおりたいへんにもっともなことしか述べていないというのは要するにギャラップのCEOなので日本のことはほとんど知らないということであろうと推測されるわけで(失礼)、記事が日本について問題提起したいのであればやはりキャリアの問題を指摘してほしかったと思います。毎度書いていることではありますが、ジョブ型の欧米諸国であれば自らのジョブを自ら主体的に選択したとの当事者意識があるのに対し、メンバーシップ型の日本では自らの仕事は会社から配分されたものであって自ら選択したものではないわけなので、そのあたりの意識の違いがEmployee Engagementに影響する部分というのもあるのではないかと思うわけで。まあなかなか検証が難しい仮説ではあると思いますが、せっかく「働き方改革エディター」の方が書いておられるのですからインタビューだけではちょいと物足りなかったかなあと、まあそんなことを思いました。余計なお世話。