『月刊シルバー人材センター』編集室編『人生100年時代を楽しむ生き方』

 (一社)労務行政研究所の石川了さんから、『月刊シルバー人材センター』編集室編『人生100年時代を楽しむ生き方~定年後を豊かにする28のインタビュー~』をお送りいただきました。ありがとうございます。石川さんは『月刊シルバー人材センター』編集室の中の人なので、事実上の編者ということになります。

 同じくその石川さんが編集を務める日本キャリアデザイン学会の広報紙『キャリアデザインマガジン』に書評を寄稿しましたので、こちらにも転載しておきます。

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 シルバー人材センターはすでに30年以上の歴史を有し、地域にすっかり定着したといえるだろう。全国に1,335団体、約69万8,000人の会員を擁し、契約高は年間3,036億円に達するという(令和2年度)。これはコクヨ(3,006億円)、ハウス食品グループ本社(2,937億円)、テレビ朝日ホールディングス(2,396億円)といった知名度の高い企業の売上高を上回っており、企業に例えればまずは堂々の大企業といってよい。

 その会員や職員に愛読されているのが『月刊シルバー人材センター』という情報誌だ。センターの事業紹介はもとより、高年齢者の就労、生活、健康、趣味などに関する記事が収載されている。この本は、その巻頭の連載インタビュー記事「これからのシルバー人材センター」「人生100年時代の高齢者〈生き方・支え方〉」28本をまとめたものだという。記事は分かりやすくコンパクトにまとめられており、読み物としてストレスなく、楽しく読み進めることができる、面白い本であることをまず紹介しておきたい。インタビュアー(溝上憲文氏,山辺健史氏)と編集者の手腕の賜物であろう。

 登場するインタビューイーは、三浦雄一郎林家木久扇、若宮正子など80代でもなお第一線で活躍する方々から、現場を支える若手や実務家など実にその顔ぶれはバラエティに富んでおり、カバーに記されたその名前を見るだけでも、まことに多様な人々が高年齢者の就労とそれを通じた生きがいの獲得、地域の活性化に関与していることを実感できる。

 当然ながら内容も多彩で、例えば連載初回では高年齢者労働研究の第一人者である清家篤先生がシルバー人材センター事業の意義と課題、今後の期待を述べられているのに対し、本書中で岸本裕紀子氏(エッセイスト)の記事では、女性シニアの働き方の変容とコロナ禍下における変化が語られているといった具合だ。全体的には、本のはじめの部分(第2章の途中くらい)は人生100歳時代を元気に「生きる」人々が主に登場し、その後は「支える」人が多数登場する。その「支え方」は、政治、経済から社会・福祉、さらには地域、家庭、そして医療など多岐にわたり、ライフキャリアの終盤にあたる高年齢者への支援や関与のあり方を
幅広く俯瞰することができる。そういう意味でも、必ずしも高年齢者に限らず、キャリアに関心のある人にも大いに有益な本だろう。

 そして、それ以上に大きなこの本の価値は、書名の『人生100年時代を楽しむ生き方』にもあるように、ともすれば不安や心配をともないがちな高年齢期を「楽しむ」ためのヒントが満載されていることだろう。もちろん、それぞれのメッセージに対する受け止め方は、人によってさまざまであり。同じメッセージでも、それに共感し、模倣しよう、あるいは目標にしようと思う人もいれば、「とてもついていけない」と思う人もいるだろう。だからこそ、この本に収められた28人の語る、数多くのエピソードの価値がある。読者はその中から、ほかならぬ自分が共感できるもの、「これなら私もできる」と思えるものを見つけ出せばいいのだから。

 人間だれしも、生き延びる限りはいずれライフキャリアの終盤、高年齢期にさしかかる。この本の中にも、高年齢期にさしかかる前の生き方が大事というメッセージもあれば、「高年齢期の不安ゆえに窮屈な生活をするのは勧めない」というメッセージもある。生涯通じてのキャリアデザインにおいては、いずれも重要な視点であろう。これもまた、この本をすべての年代の読者にお薦めしたいゆえんである。