先日こんなニュースが流れてきました。
http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/22/minimum-wedge-nyc_n_7853568.html
「アメリカ・ニューヨーク州のファストフード賃金委員会は7月22日、時間当たりの最低賃金を段階的に15ドル(約1860円)まで引き上げるよう勧告することを決めた。」とのことで、まあ実現性には疑問もなくはないようですが、日本で類似の運動を展開している向きには勇気づけられる話かもしれません。
さてそれはそれとしてマクドナルドということで私にはちょっとどうなんだろうと思うところがあったので簡単に調べてみました。マクドナルド商品の「ビッグマック」は英エコノミスト誌が各国の物価水準の比較に用いられていたりしますが、その価格と最低賃金がどんな感じになっているのか気になったのです。
ということでデータは最低賃金については労働政策研究・研修機構の『データブック国際労働比較2016』(いつもお世話になっています。Web上にもありますhttp://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2016/05/p198_t5-19.pdf)、ビッグマックの価格については「世界経済のネタ帳」というウェブサイトに掲載されていたもの(http://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html)を利用しました(ありがとうございます)。なお最低賃金は日額(*)・月額(**)で定めている国もあるため、非常に大雑把ながら便宜的にそれぞれ日額の8分の1、月額の160分の1で時間当たり換算しています。
結果をまとめるとこんな感じでした。
国名 | 通貨 | (A)最低賃金額 | (B)ビッグマック価格 | B/A*100 | |
---|---|---|---|---|---|
ドイツ | ユーロ | 8.5 | 3.59 | 42.2 | |
フランス | ユーロ | 9.67 | 4.1 | 42.4 | |
イギリス | ポンド | 6.7 | 2.89 | 43.1 | |
日本 | 円 | 798 | 370 | 46.4 | |
アメリカ | 米ドル | 7.25 | 4.93 | 68.0 | |
韓国 | ウォン | 6030 | 4300 | 71.3 | |
中国** | 人民元 | 12.7 | 17.6 | 138.6 | |
インドネシア** | ルピア | 19375 | 30500 | 157.4 | |
フィリピン* | ペソ | 60.1 | 131 | 218.0 | |
ベトナム** | ドン | 21875 | 60000 | 274.2 | |
インド* | ルピー | 44.1 | 127 | 280.0 | |
タイ* | バーツ | 37.5 | 112 | 298.7 |
表の上半分・下半分がはっきりわかれていて、ビッグマックは先進国ではジャンクフードでも途上国ではまだぜいたく品だということなのでしょうか。
そこで先進国をみると、面白いことに日本と欧州はよく似ていて、ビッグマック価格は最低賃金の40%台くらい。米国と韓国が同じくらいで7割前後になっています。低い低いと言われるわが国の最低賃金ですが(そしてたとえば賃金の中央値との比較などで評価すると実際低くなるわけですが)、ビッグマック平価でみれば欧州との比較でもけっこうがんばっていることになってしまうんですね。
これを見てひとつ考えらえるのが日本のビッグマックは安すぎるということではないかと思います。ということは消費者が最低賃金が低いことによる恩恵を受けているということになりそうです。わが国では現在最低賃金を1,000円を目標に引き上げる(そうすれば先進国では普通くらいの水準になるというわけですが)という政策が進められようとしているわけですが、そうなるとビッグマックの価格は最低賃金比37%ということになって欧州諸国をも大きく下回ることになります。
ということで、もしわが国で最賃を大幅に上げていくのであれば、その負担(の一部)は消費者が負担する=値上げすることが不可避ではないでしょうか(つかそうしないと経営も立ち行かないと思う)。特に確証があって書くわけではありませんが、これはマクドナルド以外にもわが国では(特にサービス産業を中心に)広く見られる話ではないかと思います。
ということでまた毎度の話になるわけですが、やはり消費者が値上げを受け入れるかどうかが問題だということでしょう。近年のわが国の家計は防衛的な傾向が強く、値上げが受け入れられにくい状況にあると言われます。これについては所得不足に主因を求める意見もあれば財政・社会保障の将来不安を原因とする意見もあるなど議論はさまざまですが、要するに着実な経済成長が必要だということは言えるだろうと思います。マクロでみると企業部門に資金が積み上がっているという現状をみれば、まずは企業の奮起が望まれる場面かもしれません。政策的にも企業活動の活発化にむけた環境整備が望まれるところですが、個人消費の促進にも配慮が求められるでしょう。消費の停滞が本当に将来不安によるものなのであれば、再分配の強化や雇用の安定、(最低賃金も含む)労働条件の改善支援といったものにも配慮が必要であり、それと企業活動活性化に向けた規制改革とのバランスが重要だということかもしれません。