判決確定までは推定無罪

産経ニュースから。国民新党の亀井代表が、大阪地検の前田元主任検事が懲戒免職となったことに対して「推定無罪がこれまでの常識であり不適切」との見解を示したそうです。

 国民新党亀井静香代表は13日の記者会見で、法務省大阪地検特捜部の押収資料改竄事件で起訴された前田恒彦被告を懲戒免職処分としたことについて、「無罪の推定の上に立って身分の処置がなされるのがこれまでの常識だった。任命権者が『悪いヤツだ』とレッテルをはったらどんな処分をしても構わないという国になったのか」と疑問を呈した。
 その上で、「『身内に厳しくした』という一言では片づけられない。大林宏検事総長尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件の船長釈放の対応を含め、国民に対してきちんと説明しないといけない」と指摘した。 
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101013/plc1010131554013-n1.htm

亀井氏は元警察官僚ですし、これが正論というものではあるでしょう。実際、厚生労働省村木厚子氏が起訴されても免職せずに休職とした*1わけですし。
民間企業においても、起訴段階では懲戒解雇まではしないのが一般的ではないでしょうか。法的にも、学説・裁判例ともに起訴自体を理由とする懲戒解雇は認めないのが主流と思われます。厚生労働省が作成・公表している「モデル就業規則」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/)をみても、休職の規定として

(休職)
第9条 従業員が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

 (2)前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき 必要な期間

となっていて、「本条第1項第2号の「特別な事情」には、公職への就任や刑事事件で起訴された場合等がそれに当たります。」とされています。まあ、民間では現実には起訴段階で懲戒解雇などの処分を行うケースもなくはないようですが、これは本人が犯行の事実を認めて反省し、処分に納得していて、内外から「なぜ処分しないのか」との批判を受けるリスクがある場合に限られるのではないでしょうか。
そこで今回の前田氏ですが、報道によれば一応前田氏自身は起訴事実(故意の改竄=証拠隠滅)を認めているとのことです。これは起訴事実を認めなかった村木氏(とか小沢一郎*2とか)とは異なる事情であり、本人が免職に異論がなければ免職してもいいだろうとの判断はあるのかもしれません*3。また、検事が起訴されたのは民間人が起訴されるのに較べて情状が相当に重い、ということも言えるのかもしれません。マスコミにも大いに叩かれているところであり、早期に厳正な処分を行いたいというのは上記の民間の実感に一致する部分もあります。
一方で、行政機関である検察庁が裁判例や学界の有力説を超えた運用を行うのはいかがなものかという感もありますが、どんなものなのでしょうか。というか、この事件でも村木氏(の部下の上村氏)のように、前田氏が裁判では一転して「強いられて認めた」と主張するという展開になる可能性はないのでしょうか?前田氏の当時の上司筋は容疑を否認しているわけで、どことなく村木氏の事件と似ているような気がしなくもありません。
まあ、そうなったらなったでまことに皮肉なというか興味深い話になりますが、その可能性を考えれば「推定無罪」が無難なような気がしますし、検察庁も危ない橋を渡るものだとは思います。なにせ相手は法律の専門家なんですから。


(10月15日追記)コメント欄での指摘(国家公務員法第79条第2号に、「刑事事件に関し起訴された場合には、その意に反して、これを休職することができる」という明示的な法律の規定がある)を受けて思ったのですが、検察官も一般職の国家公務員であるには違いないわけなので、やはり国家公務員法の定めが適用されるのではないでしょうか?だとすれば、それにもかかわらずあえてこの段階で諭旨免職としたというのはかなり異例な感があり、いかに前田氏が嫌疑されている罪を検察庁が憎んでいるかということを示しているのでしょう。

*1:もちろん推定無罪なので休職の事由は起訴ではなく、勾留により服務できないためのはずです。

*2:あ、小沢氏はまだ起訴されてないか。

*3:もちろん、刑事裁判で有罪になればすべて懲戒解雇が合理的ともいえないわけですが、今回のケースは有罪になれば合理性が否定されることはなさそうに思われます。もちろん判断するのは裁判所ですが。