尖閣ビデオ流出の海上保安官に行政処分を検討

いわゆる「尖閣ビデオ流出事件」で、投稿した海上保安官に対する行政処分が検討されていると報じられていました。読売オンラインから。

 政府は16日、尖閣諸島沖の中国漁船衝突の映像を動画投稿サイトに投稿した神戸海上保安部の海上保安官の逮捕が見送られたことを踏まえ、刑事処分とは別に、行政処分を行う方向で検討に入った。
 具体的な行政処分としては、国家公務員法に基づく「免職」「停職」「減給」「戒告」の懲戒処分が検討されている。
 政府は「今回の事態を許せば公務員の綱紀が緩み、政権の土台まで揺るがしかねない」と警戒している。
 海上保安官の逮捕見送りに関しては、仙谷官房長官が16日の記者会見で「捜査機関の一員が捜査関係書類を流出させるというのは驚天動地で、考えられもしない事態だ」と批判し、海上保安官の行為は正当化できないとの認識を強調した。
 玄葉国家戦略相も同日の記者会見で、「武器を持つ組織の規律の乱れを重大視しなければ、世の中の秩序が成り立たない。適切な行政処分は科されるだろう」と語り、行政処分の確実な実施を求めた。
(2010年11月17日08時45分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101116-OYT1T00865.htm

世間ではこの海上保安官国家公務員法違反(守秘義務違反)に問えるかどうかが注目されていて諸説あるようですが、組織内部での処分をどうするかは、立件されるかとか、有罪判決が確定するかとかいったこととはまた別の問題で、立件されなかったから内部処分も当然になくなるとかいった性質のものではないのではないかと思います。刑事罰に問うには厳格な要件が必要でも、それに較べて程度の軽い内部処分であれば要件もおのずと緩やかなものになるだろうと考えられるからです。

  • ただ、これは公務員の世界の話なので、こうした民間企業の理屈で議論できるものかどうかは私にはよくわかりませんので為念あらかじめお詫びのうえおことわり申し上げます。ご存知の方、ご教示いただければ幸甚です。

ということで、確かに海保の情報管理などもかなりずさんなもので問題なしとはしませんし、刑事罰に問えるほどに「実質的な秘密として保護に値する」ものとはいえないという意見も有力らしいのですが、しかし投稿した時点では海保としてこの情報を秘密として取り扱うということは決定され周知されていたわけですから、それを公開したことは服務規律上は大問題といえましょう。

  • というか、これまた海保がどうかは私は知りませんが、私物のUSBメモリで情報を持ち出す、あるいは私物のUSBメモリを接続すること自体を(winny+ウィルスなどによる意図せざる流出を避けるなどのために)禁止している例も多いのではないかと思います。もちろんこれに対する処分は情報を漏洩した場合に較べて軽くなる傾向はあるでしょうが。

これは公務員の世界の話で、私は公務員のことはよく知らないのですが、民間企業では機密漏洩に対しては懲戒解雇などの厳罰で臨むという規定を持ち、実際にもそのように運用する例が多いのではないかと思います。機密漏洩はそれ自体経営に甚大な打撃を与えかねませんし、私のような人事屋からみれば、そのような方法で利益を得ることは他のまじめに勤務する従業員に対する裏切りであって許しがたいとの思いもあります。政府の方々は、記事を読むとそれ以前に恨み骨髄という感じが行間から漂っていますね。
もっとも、それではこのケースが民間で起きれば懲戒解雇か、と言われると微妙な感もあり、たぶん海保の当局も判断に苦慮していることと思われます。
まあ結果の重大さについてはこれだけ騒ぎが大きくなったわけですから、海上保安庁としては「たいした影響はなかったから見逃して」と言われてもそうはいかないでしょう。本人もそうは言っていないでしょうし。
で、本人は動機が正当だから責められるべきではないと主張しているという話もあるらしいのですが(ちょっと探した限りではソースがみつかりませんでしたが)、さすがに公益通報にはあたらないでしょうし、動機の正当性を主張するのにユーチューブへの投稿っていう方法はどうなのかいやこれは偏見なのかなどとも思わなくはありません。いやまあせめてマスコミに送るとか。いずれにしても動機が正当であれば非違行為も免罪されるべきという主張は西濃運輸の倉庫から他人の荷物を盗み出した環境団体メンバーの主張と同構造でそれほど尊重すべきものとも思えず、人事屋とすればまあ多少は酌量すべき情状にはなるかなという感じです。
ある時期までは誰でも見られたしみんな見てたから(表現はレトリックであり不正確です)秘密とは思わなかった、海保のずさんな情報管理にこそ責任がある、という主張もあるらしいのですが(これまたソースをあらためて探してはおりません)、これもまあ知らなかったではすまないよという話でもありそうですし、だからユーチューブに流してもいいかというとやはりかなり飛躍があるなあとも思うわけで、やはり考慮されるべき情状にとどまるというところでしょうか。
もっとも、仙谷長官が「捜査機関の一員が捜査関係書類を流出させるというのは驚天動地」というのもやや極端という感もあり、とりわけこのビデオが秘密扱いとなったのは捜査上の要請というよりは政治上の要請であったことは明らかなように思われるわけで、あなたがそれを言いますかあなたが、という印象は禁じ得ません。まあこれは居酒屋政談レベルの感想ですが。
ということで、個人的な意見としては、現に秘密を意図的に漏洩し重大な結果を招いているので、民間企業だったら懲戒解雇でいいか、まあ管理者側にも問題はあったので諭旨退職くらいにとどめるか、というところではないかと思います。まあ人事屋はだいたいこういう話には辛い傾向があるので、世間一般からみれば厳しいなと思われるかもしれません。加えて、情報管理が本当にずさんなものであったとすれば、そちらの責任者や担当者も相応に処分されてしかるべきでしょう。戒告などの懲戒とするのか、厳重注意などに止めるのかはこれまた事情と情状によるでしょうが、それなりのことはしないと均衡を欠くように思います。
ただ、このケースについては、政治的なものがかなり入りこんでいるわけで、政治犯(?)に厳罰はいかがなものかということで停職くらいにとどめるという判断もあるのかなあという気もします。これは本当に気がするという話で私にはこのあたりまったくわからないのではありますが。というか、免職にして世間の理解が得られるか、というのが海保当局としてはもっとも悩ましい部分なのかもしれません。