「女子」「婦人」「女性」のトリビア

昨日のエントリに、出稿者のひとりであるhamachan先生からトラックバックを頂戴しました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/2015-4afd.html
ただし議論の内容ではなく私の「さてはhamachan先生今度は女性労働の新書を出すおつもりだな」という「邪推」についてのコメントで、

いや、邪推どころか、まさにどんぴしゃなんですが。
来年早々に『働く女子の運命』というタイトルで文春新書から出る予定です。
うむ、しかし、この題名・・・。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/2015-4afd.html

へええええ。どうやらまぐれ当たりだったようです。
まあ、若者(中公ラクレ)→中高年(ちくま)と来れば、次が「女性(文春)」となるのは、読み筋と言えば読み筋ではありますが…。
ま、昔からあてずっぽは得意だったというか、邪推もこれだけ垂れ流せば一つくらいは当たりを引く(笑)という話ではありますな。
来年早々ということですから、期待して待ちましょう。
そして「この題名・・・」の「女子」に関しては、

昨年書いたこれなどが参考になるかと・・・。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/roukijunpo141125.html「女子と婦人と女性」
まあ、典型的なトリビアですが。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/2015-4afd.html

と書かれていて、なるほど一昨日のご説明もおおむねこのエッセイのとおりだったように思います。ということで、実は昨日のエントリに対して読者の方から「女子、婦人、女性の使い分けについて教えてほしい」というリクエストをいただいているのですが、上記hamachan先生のエッセイのご紹介でご回答に代えさせていただきます、と安易な道に走る(笑)。
とまあ安易なだけでも芸がないのでhamachan先生のエッセイにない部分について少し敷衍しますと、女子が女性にかわった1997年の均等法改正の際には、同時に労基法も改正されており、エッセイでも紹介されている女子に対する深夜業や時間外労働、休日労働の規制すなわち女子保護規定が撤廃されました。これら規制が女性労働者の職域拡大やキャリア開発を阻害しているとの指摘は使用者サイドだけではなく一部の(一部ですが)労働者サイドや女性サイドからもなされており、機会均等や均衡待遇を推進するならこの規制も撤廃するのが妥当ではないかということで法改正となったわけです。その議論の中で、深夜業禁止などは撤廃するが産前産後休暇や生理休暇などについては維持すべきであり、女子保護と母性保護は違う、前者を撤廃するにしても後者は堅持されなければならない、といった議論がされていたのは、当時すでにこの世界にかなり足を突っ込んでいた私には懐かしい思い出です。
さてhamachan先生は「女子」と並んで労働政策上特別な保護を要する労働者の概念として「年少者」を紹介しておられますが、こちらにも「(勤労)婦人」におおむね相当する概念として「(勤労)青少年」があります。最近話題になった若者雇用促進法案についても形式的には勤労青少年福祉法の改正という形をとっていて、勤労婦人福祉法を改正して均等法をつくったのと同じパターンです。「働く婦人の家」と同様に「勤労青少年ホーム」の設置について定めているなど内容的にも共通した部分が多くあります。
でまあ「おおむね相当する」などと歯切れが悪いのは、労基法が年少者を「18歳未満の者」と明確に定義しているのに対して、勤労青少年福祉法は勤労青少年の定義を定めていないからです。もちろんそれでは運用ができないのであって、法が制定を定めている勤労青少年福祉対策基本方針においては、長らく「30歳未満」とされてきました。これが2008年の第8次方針において「おおむね35歳未満」と5歳引き上げられ、昨年の第9次方針でもそれが踏襲されました。現実には近年の若年雇用対策はその対象を40歳未満としていることが多いのですが、30代後半でなお「発達途上」とも言えないのではないかという議論があったようです。
ちなみに労基法では前述のとおり満18歳未満の者が年少者で、児童労働の禁止などにおける「児童」については「15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの者」と定義しているのは周知のとおりです。ところが児童福祉法では18歳未満を一括して「児童」と定義し、「小学校就学の始期から18歳に達するまでの者」を「少年」としていていささか紛らわしいものがあります。もちろんそれぞれの法の趣旨に応じて定義づけされているわけですからそれで問題ないわけではありますが、しかしわれわれ素人にはわかりにくいものがありますね。
これについては実は勤労婦人福祉法も勤労婦人の定義を定めているわけではなく、ただ女性かどうかは一応医学的に決定できるのでとりわけ法制定当時は定義を与える必要はなかったのかもしれません。
ただ「勤労」の部分はやや曖昧ではあり、たとえば自営業や農業に従事する女性や青少年は勤労婦人や勤労青少年に該当するのかという話は考えられます。これまたはっきりした定義があるようでもないのですが、「勤労者」と名のつく法律としては勤労者財形法や勤労者住宅協会法などがあり、いずれも勤労者は雇われて働く人という定義になっています(まあそういう法律ですから当然ですが)。まあ法律を読むと勤労婦人福祉法も勤労青少年福祉法も事業主とか労働条件とかいった語が当たり前のように出てくるので雇用労働者が念頭におかれているのでしょうが、しかし勤労婦人の家の利用といった実務においては柔軟適切に運用されてきたということでしょう。
さてhamachan先生のご紹介のとおり勤労婦人と対になるのは(勤労男性ではなく)「家庭婦人」であるわけですが、これまた同様に家計補助的にパートタイム就労している人は勤労婦人ですか家庭婦人ですかという問題はあり、まあ家庭婦人にいたっては法律にも出てこないので、完全に排他的な概念ではなく勤労婦人かつ家庭婦人という人もいますというのが実態にあった定義ということになりそうです。別にそれで権利や義務が発生するわけでもないなら定義をギリギリと定める必要もないのでしょう。
というかそもそも家庭婦人ということば自体がもはやほとんど聞かないわけですが、それがまだ生き残っているのが実はスポーツの世界です。スポーツの国民的な普及が進む中、保健政策、国民の健康の増進をはかる上で、学校や職域でスポーツの機会を得られない家庭婦人へのその提供が課題となり、「ママさんバレー」に代表される家庭婦人スポーツの振興がはかられたことがありました。1960年代後半には全国家庭婦人バレーボール大会が始まりましたし、現在の全国ママさんバレーボール連盟が「日本家庭婦人バレーボール連盟」として発足したのは1979年のことです。家庭婦人といえばママさんだと考えて何の不思議もない時代だったわけですね。
現在では団体名だけでなく大会名も変わり、全国家庭婦人バレーボール大会は全国ママさんバレーボール大会となりましたが、年代別の大会についてはまだ家庭婦人大会と称されているようです。選手資格についても一部に「家庭婦人」の語は残るものの、基本的には一定年齢以上の女性であれば有資格とされています。婚姻や子の有無についても不問であり、「ママさんバレー」の名を維持しているのはそれがあまりにも国民的に定着しているからでしょう。
他の競技についても似たような実態が広くみられ、全国組織の名称を依然として家庭婦人連盟としているいっぽうで大会名をママさん大会としているバスケットボールのような例もあれば、団体名はレディース連盟としながら大会名は家庭婦人大会としているバドミントンのような例もあります。全体としては大会名称としてはまだ多くの競技で、特に地方レベルで「家庭婦人」が使われているようです。
まあ歴史や経緯があっての話でしょうから部外者が軽々に言うべきことではないでしょうが、それにしても他の分野ではほとんど目にすることのなくなった家庭婦人という用語を依然として使い続けているのは、スポーツ界の体質の古さを示すものだと言われても致し方ないような気はします。
ということで最後はずいぶん脱線してしまいましたが、まあ本ブログの読者の方にはトリビアの範囲ということでご容赦いただければと思います。ということでフォーラムの内容に関する感想はまた明日以降に譲らせていただきます、とまあ予想どおりではないにしてもそれに近い経過をたどっているなというところで今日は終わります。