賃金水準不問なら

上のエントリを書いていて思い出したのでここでさらしておきます。いや冨山和彦氏ネタなんですが、WebGOETHEの「それ、会社病ですよ」という連載の第25回「ゾンビ企業を延命させるな」から。

…有効な方法があります。産業の密度を高めることです。端的に言えば、M&Aによって、高密度の寡占状態を作る。効率のいい経営をしているところに雇用や事業を集中させ、ベストプラクティスアプローチで、生産性を高めるのです。
 逆に、生産性の低い会社やブラックな会社は退出してもらう。税制優遇や補助金で低生産性の企業を守ってきたのが、これまでの日本でしたが、もうゾンビ企業は延命させない。過去、確かに製造業が衰退するなかで、他の産業が雇用の受け皿になるという存在意義はありましたが、もうそれも必要ない。なぜなら今、サービス業では、労働力はまったく足りていないから。
 都内のファストフード店が、人手不足で閉店というニュースがありましたが、実は地方都市ではもっと早く人手不足が起きていました。今、地方で大規模なショッピングセンターなど、作ろうと思っても作れません。なぜなら、従業員を確保できないから。
 ゾンビ企業に退出を願うという政策の大転換は、「従業員が路頭に迷う」という経営者の大反発に合うかもしれません。しかし、このセリフはもう通用しない。なぜなら、路頭に迷わないから。
 自律的な力を持っている企業を応援し、事業や雇用を収斂する。そうした地に足のついた政策こそが今、求められているのです。
http://goethe.nikkei.co.jp/serialization/prescription/140930/index.html

ある種の論者の典型だと思うのですが、雇用はある、ただし賃金水準は不問なら、と言っているわけですね。「なぜなら、従業員を確保できないから。」なぜなら、賃金を上げようとしないから。「なぜなら、路頭に迷わないから。」でも、生活水準は大幅にダウン。「都内のファストフード店が、人手不足」なんだってさ。違うよね、低賃金の人手不足だよね。つか「ブラックな会社は退出してもらう」とかいいながらブラック企業が人手不足ですとか言ってどうすんの。
たしかに「効率のいい経営をしているところに雇用や事業を集中させ」れば、そこの生産性は確実に向上するでしょう。しかし、そこからはじき出された労働力がより低賃金な企業で就労したり、失業したりすれば、社会全体の生産性が向上するかどうかははなはだ疑わしい*1。まあ「生産性の低い労働者は低賃金で清く貧しく生きよ。」それが「地に足のついた政策」だというのなら、まあご自由に主張されればいいでしょう。こちらはこの先あまり期待できそうにないなあ。

*1:もちろん生産性の上がったセクターの購買力が向上してそこに対するサービスの供給価格まで上昇すればいいわけですが(一種のトリクルダウン)、このお方はそこまでお考えになってはいないでしょう(偏見)。