アルバイトの悪ふざけ

 たまにはそれなりのエントリを(笑)
 このところ飲食店のアルバイト従業員の悪ふざけが発端になって、場合によっては閉店に至るといった不始末が続いていますが、これに関連して先週金曜日の日経MJにこんな記事がありました。「徳力基彦のECの波頭」という月1回ペースの連載のようです。

 7月中旬にローソンの従業員がアイスクリームケースの中に入った写真を投稿したことが問題となってから、類似の出来事が次々にメディアを騒がせている。
 これ以降も類似の飲食店やコンビニエンスストアの従業員やアルバイトによる炎上騒動は、ファミリーマートミニストップバーガーキング、ほっともっと、丸源ラーメンブロンコビリーなどに及んだ。メディアで報道されていないボヤ程度のものを含めると、実際にはもっとあり得るだろう。
…結果として該当の従業員やアルバイトが解雇されるだけでなく、返金処理や消毒作業による店舗の休業、フランチャイズ契約の解約などにも余波が及んでいる…特にブロンコビリーの場合は、信頼回復は難しいという判断から、営業再開を断念し、当該店舗の閉店を決めた。問題を起こした店員に対する損害賠償請求も検討するという。
 そこで今後は間違いなく、同様のトラブルが発生するリスクを自社でいかに最小化するかが課題となる。…そういう意味では、こうした行為を自分がやってしまうと人生を壊してしまうという現実を認識させる教育の徹底が重要だ。今回の騒動では騒ぎを起こした人たちのほとんどは解雇され、最悪のケースでは、会社側からの損害賠償請求さえ検討されている。
…飲食店における不衛生な行為は、運転手やパイロットの飲酒運転と同じぐらい深刻な出来事だ。それが守られなければ本人の人生だけでなく、同じ会社の同僚や企業ブランドにも悪影響を与えることを、全社員、全アルバイトに徹底して共有すること。これが遠回りなようだが最善であり唯一の対策といえるのかもしれない。
(平成25年8月25日付日経MJから)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGF14034_W3A810C1H1EA00/

困った話であることに違いはないのですが、しかし時給1,000円とかのアルバイトにやらせている以上は一定確率で発生するリスクだろうと思わなければならないのではないかとも思います。ちなみに件のブロンコビリー足立梅島店のアルバイト募集サイトがまだ生きているのですが(http://job-gear.jp/bronco/detail.htm?L=BCSDetail&ID=A10913585383&PREV_URL=%2Fbronco%2Fmaplist.htm%3FL%3DBCSList%26val23%3D1013%26NOI%3D20)それによると時給は900円となっていますね。
つまり、徳力氏は「こうした行為を自分がやってしまうと人生を壊してしまうという現実を認識させる教育の徹底」というわけですが、時給1,000円のアルバイト先を失うことが「人生を壊してしまう」ほどの痛手かどうかというと、およそそうは思えません。もちろん、個人の信頼が失墜することでそれ以降もアルバイトにありつけなくなるとか、ひいては正社員就職をめざす際にも門戸が閉ざされるだろうとかいう話になるのであれば、それはたしかに「人生を壊してしまう」ことになるかもしれませんが、はたしてそんなことになるかというと、それも考えにくいような気がします。もちろん、「こういうことをするとこういうことになってあなたはクビになる」ということを教えることはきわめて重要ですが、しかしそれだけでは徳力氏が想定するほどの効果も期待しにくかろうと思うわけです(なお社員には効くであろうことは徳力氏に同意します)。
これに関しては、ちょっと古いですが8月9日付産経新聞の「編集日誌」が「帰属意識なき従業員たち」とのタイトルで簡単に触れていて、

 8日付朝刊では、中国に進出している大手日本企業の「社外秘」資料などが中国のデータ共有サイト「百度文庫」などに大量に流出しているというニュースを1面などで取り上げた。
 同サイトへの情報漏洩(ろうえい)は、サイトからのポイント目当てに、合弁先や取引先などの中国人従業員らが行った疑いもあるとみられている。
 ところで、日本ではこのところ、コンビニやファストフード店などのアルバイト従業員らが、店内の冷蔵庫に寝そべったり、食材のソーセージをくわえたりする不適切写真をインターネット上に投稿する問題が相次いで発覚している。
 影響の大小はあるにせよ、いずれの問題でも想起されるのは、自らが働く企業への帰属意識の乏しさ、はたまた、収入を得ている場であるという意識の希薄さではないだろうか。(編集長 近藤豊和)
(平成25年8月9日付産経新聞朝刊から)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130809/crm13080908080007-n1.htm

もちろん職業倫理の重要性もこれまた全力で同意するところではあるのですが、時給1,000円のアルバイトで「帰属意識」とか「収入を得ている場であるという意識」を求めてもなあという気がするところでもあるわけです。彼らの多くはアルバイトをクビになっても即座に生活に困るという状況にはないわけなので。
逆にいえば、悪ふざけをしない、意識の高いアルバイトを採用したいのであればそれなりの労働条件(賃金に限らず)を提示しなければならないということでしょうし、さらに逆にいえば、この職を失いたくないと思っているアルバイトが悪ふざけをする確率は低いだろうと思うわけです。この場面では効率賃金仮説があたっているのではないかと。
とはいえ、だからといって法外な時給を払うわけにはいかない(時給を上げて価格転嫁すればよいという議論は別途)という話はもちろんあるでしょうが、世間相場より多少高くするだけでもそこそこ効き目はありそうですし、定期的に若干の昇給を行うというのもそれなりに効果がありそうです。労働条件というのはかなり幅広なので、たとえばそこで働くのが楽しいいいお店、といった職場環境の良好さなども案外効果があるかもしれません。
ということで店舗限定正社員というのがひとつのソリューションではないかと思うわけです。もちろん小売や飲食では営業時間のカバーや繁閑対策で一定のアルバイトが必要でしょうが、店舗閉鎖・縮小時の雇用調整のために必要とされる部分があるのであれば、それは店舗閉鎖・縮小時に疑義なく雇用が終了する店舗限定正社員で対応できるのではないかと。時給1,000円でフルタイム勤務すれば所定内だけで月16万がところはいくわけで、これを20万円にすれば(飲食・小売などで想定される)休日労働や時間外労働を加えてなかなかの待遇ではないでしょうか。店舗限定正社員となると、店舗の業績向上に相当に尽力することが期待できるでしょうから、多少のコストアップは十分に引き合うのではないかと思います。
なお損害賠償で痛い目にあわせてやるぞというのは当然あり得る考え方でしょう。ただ、私はあまり詳しくないのでなんともいえないのではありますが、それで「人生を壊してしまう」ほどの打撃を与えうるかというと、かなり疑問ではないかと思います。もちろん、企業としてはやむにやまれぬレピュテーション対策を余儀なくされて多大な損害を被ったと主張するのでしょうが、いっぽうでアルバイトが冷凍庫に入ったことがそこまでの対応を要するのかという反論は容易に想定され、裁判所もかなり限定的に判断するのではないでしょうか。まあ、損害賠償請求するぞ、というブラフは、それはそれで一定の効果を発揮しそうですが、現実に訴訟のコストをかける(それはそれで別のレピュテーションリスクをともなうでしょう)くらいなら、それこそ時給アップとか、別の方法を考えたほうがよさそうに思います。