「正規」「非正規」

報告書の19頁に「全員参加型社会に関連して、いわゆる「正規」「非正規」をめぐる議論について見解を明らかにしておきたい」との記述があり、以下で非正規雇用問題について論じています。

…処遇が比較的に固定的な「正規従業員」(フルタイム長期従業員)と、基本的に需給で決まる「非正規従業員」(期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等)との間で差があり、今も差が残っているのは事実である。
 こうしたことを背景に、「正規従業員」と「非正規従業員」との間にあたかも上下関係があるかのように見なす風潮がある。そして両者の格差を是正するとして「非正規従業員の正規従業員化」の推進が主張されている。
 企業は、経営資源の中でも人材を最も重視しており、帰属意識や忠誠心を高め、計画的な人材投資を行う観点から、適性があり能力のある従業員はできれば長期雇用しようとする。同時に、需給の変動や、専門性が求められ社内に適切な人材がいない場合への対応などにおいて、求職者の希望に応じて、期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等の活用を図っている。両者の活用動機は異なり、企業にとって両者の間になんら上下関係というものはない。
(中略)
 むしろ、企業や政策当局が取り組むべきことは、「正規」と「非正規」との間の壁を引き下げ、合理的な根拠を欠く処遇の違いや偏見を解消し、フルタイム長期従業員も、期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等も、それぞれ自らの選んだ職務を、胸を張り、誇りをもって勤めることができる社会を創ることである。

こうやって枝葉を取り払ってみると、ここで主張されているのは、「あたかも上下関係があるかのように見なす風潮」や「偏見」に問題があり、これら風潮や偏見を理由とした処遇の差は「合理的な根拠を欠く」ものであって解消すべきだ、ということだということがわかります。そのいっぽうで、「両者の活用動機は異な」るのであり、活用動機の違いによる処遇の差は合理的なものだ、ということになりましょう。これは経団連が一貫して主張してきたものと変わりありません。
で、枝葉(とはいっても重要な内容ですが)の部分では、まず上で(中略)とした部分ではこう主張しています。

 高度成長期には、男性を中心とするフルタイムの長期雇用が典型的な雇用関係であった。しかし、今や、全員参加型社会の実現を目指して、女性や高齢者の労働市場への参加率を引き上げていくことが課題となっている。これらの人々は育児や体力の問題などのため、必ずしもフルタイムの雇用関係を望まない傾向がある。また、性別や年齢を問わず、家庭生活や多彩な才能の発揮を重視し短時間勤務や短期間雇用を積極的に選択するライフスタイルや、一つの企業や職種にしばられない多様な職業人生を求める価値観などが広がりを見せている。
 就職氷河期に意に反して期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等となった人々に、長期雇用への道を開いていくことが全社会的な課題であることに疑問の余地はない。企業も、今後とも雇用関係の軸足を長期雇用に置いていく。
 しかし、人口構成やライフスタイルが変わっている中で、フルタイムの長期雇用のみを理想型とし、その他の雇用関係・就労形態を全てこれに収斂させていくことを目標として労働政策を展開していくことには無理があると言わざるをえない。

働き方の多様化についても、働く人が望む働き方を実現できるようにしていくという方向性は妥当なものでしょうが、そこでわざわざ「全社会的な」と言っているのはなかなか味がある?ところです。また、結果的にですが、経団連として引き続き長期雇用を重視し中心とすることがあらためて表明される結果となっているのも目をひきます。
次に、「誇りをもって勤めることができる社会を創ることである。」の続きですが、こうなっています。

 そのため、企業は、中途採用や、期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等から長期雇用への転換・採用が容易な仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度を整備するとともに、透明度と納得性が高い評価制度を築いていく必要がある。
 また、期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等や出産・育児などで一度リタイアした女性などが、キャリアアップや再就労を目指し、職業能力の向上に取り組める機会を、官民が協力して拡げていくことも求められる。

この前段で「「正規」と「非正規」との間の壁を引き下げ」と言っているのは、「上下関係」「偏見」の解消という意味だけではなく、「期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等から長期雇用への転換・採用が容易」という意味合いもあるということのようです。なぜかここで「中途採用」が出てくるわけですが、それは「仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度を整備するとともに、透明度と納得性が高い評価制度を築いていく」と続くからだろうと思われます。つまり、「〜派遣社員等から長期雇用への転換・採用」というのも、外部労働市場からの中途入社と同じ位置づけが与えられているのでしょう。これは、前段の「活用の動機が異なれば処遇に差があるのは合理的」との考え方とも整合的です。
続いて、なかなか画期的?な一文が続きます。

 さらに、「正規」「非正規」の問題の根底には、所得税制や年金・医療・介護など社会保障制度の問題もある。一挙には無理としても、働き方により中立的な制度を、労使双方の納得を得つつ、着実に整備していかなければならない。

 これは非常に重要なポイントですが、たとえばパートタイマーの厚生年金加入を拡大する、ということを意味すると考えていいのでしょうか。もしそこまで踏み込んだのだとすれば−踏み込んでいるように読めますが−経団連としてはおそらく初めて(自信なし)であり、これは高く評価されるべきでしょう。まあ、大企業中心といわれる経団連会員会社にとっては、それほど大きな問題ではないのかもしれませんが、日商あたりは反発しているのではないかと余計なお世話もしたくなりますが…