RIETI政策シンポジウム(2)

さて金曜日の続きでRIETI政策シンポジウムの感想です。午後のセッションはまず労働法学者3人が報告に立ちました。
最初は東大社研の水町勇一郎准教授で、日米欧の非正規労働法制を比較し、EU実態型の合理的理由のない雇用形態を理由とした不利益取り扱いの禁止を訴える内容でした。これについては金曜日も書いたとおり私は雇用形態が違う以上は格差があるのは基本的に合理的であり、格差の程度問題はありうるとしても予見可能性があまりに低すぎて無用かつ不毛な紛争を増やすだけに終わるだろうと思っています。これは水町先生も率直に認めておられ、職務評価や職務分析に期待を寄せておられましたが、しかし職務評価で賃金を決められるなら成果主義やらコンピテンシー(どこに行ったやら)で苦労しないよなあとも思います。「大企業の労使関係の透明性・開放性の確保」というのも余計なお世話だよなあと感じたところで、私企業の団体交渉を公開しなさいというのも無理筋ではないかと思いますし、ローカルの労使関係に業績などに無責任な部外者が介入することは交渉の成果を確実に減殺するでしょう。水町先生は大陸欧州型のネオ・コーポラティズムを志向しておられるのかもしれませんが、しかし端的に非現実的なように思います。なおこれは法学者には致し方のないことではあるのですが、まるであらゆる正社員が過労死の危機にあるような発言をされると若干引くものはあります。現実には相当割合の正社員が労災保険のお世話になることもなく(厳密には労災保険のお世話になるのは使用者ですが)無事に定年を迎えているわけで(まあ途中転職とかあるにしても)。
続く立教の竹内先生の報告では、まず最近の「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」と「有期労働契約研究会」の報告書をていねいに解説(時間の関係で資料のみでスキップされた部分もありましたが)されました。その上での検討として、「多様な形態による正社員」を念頭に、現実の裁判所の判断をみると整理解雇法理は世に言われるほどには硬直的ではないことを指摘し、正社員の雇用保障ゆえに有期労働契約が必要との考え方に疑念を呈されました。その上で、客観的な業務量の減少などの理由のない期間満了のみを理由とする雇止めを禁止し、期間満了による当然終了から柔軟な形で脱却することを訴えられました。
これは要するに予防的な雇止めが問題なら端的にそれを禁止しようというものでしょう。これは私には意外な発想で聞いたときにはなんだろうと思いましたが、これはたぶん正社員の整理解雇の話があるからわかりにくかったのではないかと思います。あらためて考えてみると確かに有期労働契約で働く人の勤続の長期化をうながす施策であり、興味深いアイデアだと思います。成績不良などのほか景気や業務量の変動を理由に疑問の余地なく雇止め可能であることが法的に担保できるのであれば十分に検討に値するように思われます。雇止め手当や十分に長い上限規制との組み合わせもありうるかもしれません。この問題の核心は企業による柔軟な雇用量の調整を可能としつつ有期で働く人の勤続を伸ばすことであり、そのための手法として有力かもしれません。
第2部の最後は早稲田の島田陽一教授が登場し、前2報告へのコメントが行われました。まず島田先生ご自身の報告として非正規の代表であるパート労働について規制緩和が行われた事実はなく、規制緩和が非正規増加の最大要因との主張には理由がないことが指摘されました。続いて解雇規制の撤廃・緩和を求める緩和論と非正規の短絡的な禁止を求める強化論の双方が検討され、ともに妥当でないと主張されました。前2報告へのコメントとしては、共通する大きな課題として集団的コミュニケーションをどう実現するかというポイントが上げられ、結論として職業能力開発、最低賃金、所得保障、起業支援などの外部労働市場における環境整備の必要性を主張されました。
現状をよく踏まえたご報告だったと思うのですが、かといって水町説や竹内説については評価しつつもその現実性などを考えて強くサポートするわけでもないという立場でもあったと思います。外部労働市場の整備に活路を求めた結論には正直手詰まり感も感じましたが、しかしそれが現実なのだと思いますし、職業能力向上を通じた処遇改善という考え方には同感です。そのためにはマッチング機能の改善もたしかに重要でしょうが、やはり最重要かつ最も効果的なのは労働需要の増加であるといういつもの結論になります。
ここまで全体を通じての感想ですが、全員の共通点として長期雇用慣行のメリットを相当程度評価し、その存続を念頭に、一定の非正規労働が必要であることを議論の前提としていたと思います。これは民間の実感には一致していると思うのですが、かつて経済産業省が長期雇用慣行の有用性に懐疑的で解雇規制緩和を主張しようとしていた時期もあった(と思うのですが)ことを思うと若干の感慨がありました。パネルについてはまた明日。