総論「雇用・労働システムの再構築:雇用危機と労働市場の二極化への対応を中心に」/鶴光太郎RIETI上席研究員

全般的な問題提起という位置づけだと思われますが、例によって乱暴な要約を試みますと:

  • 今回の雇用調整の特徴として労働時間、賃金(特に賞与)、非正規雇用(特に派遣)による調整が大きく、正規労働者の調整は雇調金の大幅増もあって小さかった。こうした雇用危機対策の「出口戦略」の検討が必要。
  • 企業が有期雇用を「バッファー」として活用している以上は正社員化や待遇改善は難しい。
  • いっぽうで有期労働の過度な増加は生産性に負の影響を与えることなどから、企業自身が非正規雇用問題を内部化することが必要。
  • (RIETIによる調査結果などをふまえ)今後の方向性として雇用契約期間の長期化や非自発的非正規雇用者の正社員化と、家族を持つことが重要。
  • 具体的には、正規と非正規の間の極端な二極化の間を埋めて連続性を作るための中間的雇用形態の創出・正規雇用の多様化や、有期雇用について過度の解雇権濫用法理類推適用の見直しや雇止めへの金銭解決の導入、さらには年功賃金の見直しなどが必要。
  • 政府の関与のあり方として、「必要な人に必要なサポート」を徹底した上での、消費税を財源とした再分配強化が必要。

細かいところでは申し上げたい点もいくつかありますが、全体としてはまことに妥当な内容であるように私には思われました。経済産業省には関係省庁に指導力を発揮して、ぜひともこうした方向での政策運営をお願いしたいところです。
RIETIでは2008年、2009年にもこの時期に鶴先生の企画で労働問題のシンポジウムを開催しているのですが、2008年には鶴先生は「正規雇用の解雇規制の緩和」を主張するプレゼンテーションをしておられた(余談ながら、これは池田信夫先生が高く評価しておられました)ことを思い出すと、そこだけ見れば「雇用形態多様化」に大きく舵を切られたことになります。しかも、このような方向性については、玄田有史先生の名をあげて「(労働)研究者の間ではほぼコンセンサス」とまで言っておられました。実は私もかなり以前から雇用形態の多様化を細々と主張してきた(たとえば2001年のhttp://www.roumuya.net/zakkan/zakkan13/hiranuma.htmlとか。このブログでも2005年のhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050908ですでに書いています)ので、これにはなかなか感慨深い?ものを覚えました。
ちなみに、これは小職のあとでの発言にも関連するのですが、鶴先生ご指摘の「企業の役割としての非正規雇用問題の内部化」については、2005年から2007年くらいに顕著にみられた非正規社員の正社員登用は、人材確保に加えて非正規比率が上がりすぎたことにともなう技能の伝承や労務構成の適正化、あるいは職場コミュニケーションなどの問題点に対処するという観点からも行われていたわけで、まさに「企業による問題の内部化」として捉えられるのではないかと思いました。で、それが停滞したのは何より景気が悪化したからであって、それを考えると鶴先生の「総論」ではやや循環的要因への言及が不足しているのではないかとも感じたわけです。