公務員住宅

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 財務省は17日、国家公務員宿舎の削減策を検討する第1回有識者会議を開いた。国家公務員宿舎朝霞住宅(埼玉県朝霞市)の建設問題を契機に発足した会議で、5年間で15%強を削減するという従来案の見直しを討議する。出席者からは「宿舎も思い切った見直しをすべきだ」などの意見が出た。今後は週1回程度のペースで開催し、11月中に結論を出す。
 財務省藤田幸久副大臣は会議の冒頭、「3月11日以降、政府や税金の使い方に対する見方が一変した」と強調。「被災者の状況を鑑みて、(削減計画を)一層見直す必要がある」と指摘した。参加者からは、住宅手当てなどコストをより議論すべきだという指摘や、今まで以上に踏み込んだ削減策を求める意見などが出た。
平成23年10月17日付日本経済新聞朝刊から)

「3月11日以降、政府や税金の使い方に対する見方が一変した」というのは、「公務員住宅の建設にあてるカネがあるなら復興に回せ、増税するというならなおさらだ」ということでしょうか。
しかし、藤田副大臣ご自身が、9月23日の記者会見でこう説明しているのですね。

…朝霞住宅整備に限っての現時点での収支の試算を申し上げますと、朝霞住宅の建設に際し、さいたま新都心の通勤圏内の公務員宿舎全体で12カ所、約1000世帯分の宿舎の廃止を予定しております。したがいまして、朝霞住宅関連だけでは約10億円から20億円強程度のプラスが見込まれると考えております。
http://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20110922.htm、以下同じ

ということなので、復興にカネを回せということであれば、当然次のような発想が出てこざるを得ません。上記を受けての記者の質問です。

問)  民間のほうでは社宅の売却などが進んでいますけれども、副大臣が考えられる、そもそも公務員に対してどの程度宿舎を手当てするべきか、お考えを聞かせてください。

問)  今の宿舎を売って新しいものを建てなければもっと収入が見込めるんじゃないかと思うんですけれども、そこはどういう考えなんでしょうか。

これに対して藤田副大臣はこう回答しています。

…去年尖閣に行きましたけれども、海上保安庁の方、つまり現場で活躍される公務員の方がたくさんいらっしゃることと、先程たまたまあるテレビの番組で大阪は廃止したという話がありましたが、大阪なり1つの県の中で移動するのではなくて、国家公務員の場合には全国展開します。それから、税務署の方とか裁判所の方は定期的に転勤しなければいけないんですね。あまり地元につながり過ぎてはいけないと。したがって、職務上転勤が必要である、職務上かなり特別の勤務地に隣接していなければいけない。かつ、一般の住居よりかなり離れた辺地にいなければいけないという意味からして、民間とは違った、つまり、ビジネス的にペイしなくてもいなければいけないところで働く公務員が多いという意味で国家公務員住宅は必要だろうというふうに思っております。

…一昨年の段階で既に契約をしています。したがって、その契約を変えるということは違約金が出ます。それから、売る場合も、当時と今は価格がかなり下がっております。

要するに公務員住宅は必要であって、確保しないわけにはいかないということのようです。で、これに一部のマスコミが公務員住宅の立地のよさとか、新しいものについては施設のよさ、そして賃貸料の世間相場に較べて大幅に安い家賃、といったことを喧伝して、まあありていに言えば叩いているわけです。
ただ、繰り返し書いていますが労働条件というものは総合的なパッケージで評価・判断しなければならないわけで、人材確保という観点ではトータルで見て競合相手と同等程度の総合的労働条件を提示できなければ支障をきたすことになります。公務員の人材確保に支障が出ると困るのは行政サービスを受ける私たち国民であることは十分銘記しなければなりません。
そこで行政官庁の競合相手といえば、I種なら超有名大企業、II種でもまあけっこうな大企業ということになりましょう。公務員の労働条件の魅力はなんといっても雇用の安定ですが、国家公務員I種・II種の競合相手もまたそれなりに安定していることも事実です(そりゃ公務員ほどではないですが)。賃金水準はまあ一応人事院勧告で民間準拠で決められているので差はない(しかし個別にみると若手キャリアなどかなりの差がある部分もある)わけですが、公務員は今まさに行われているように、政治的要請で一方的に労働条件を切り下げられるということが起こりえます(民間ならまあ結論は同じとしても組合との協議といったプロセスは入るでしょうし、それを通じて見返りが取れる可能性も高いでしょう)。公務員住宅にしても、競合相手たる民間企業の社宅との比較が必要であり、スペックや家賃に加えて、転勤の起こりやすさといったことも考慮に入れる必要があります。個別に比較してきましたが、これらすべてのパッケージとして、総合的にみて魅力的かどうか(もちろん見る人の見方によっていろいろでしょう)が重要なわけです。
ということで、公務員住宅も総合的労働条件の一部である以上は、公務執行のために必要かどうかという観点だけでは判断はできなかろうと思います。私としては今回の公務員住宅の建設の是非については特段の意見を持てるほどの見識もなく、実際に是非を論じるつもりもありませんが、総合的労働条件の一部という観点が欠落しているという点では、マスコミも藤田副大臣もイマイチだなあと思っています。
それはそれとして、いまの議論は5年間は建設を凍結し、5年後には中止もありうべしということで今後検討する、ということになっているようですが、これは建設・中止のいずれにも増して不合理だと思うのですが、違うのでしょうか。
周知のとおり予定地は米軍朝霞キャンプの跡地であり、「朝霞市基地跡地整備計画書」で立地を確認することができます(http://www.city.asaka.saitama.jp/kichiato/pdf/kitiatotihokoku.pdf)。これは先日事業仕分けがらみで取り上げた(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100510#p1労働大学校の近くなのですが、労働大学校自衛隊朝霞駐屯地の隣接地で用途に制約がつくのに対し、これは米軍基地跡地なので当然ながら周囲は公園やら学校やら役所やらで固められていますが、跡地となった今では使途に制約があるわけでもありません(まあそういう事情なのでパチンコ屋やゲーセンの類、ショッピングモールは作りにくかろうとは思われるのでマンション建設あたりが妥当でしょうが)。しかも東武東上線朝霞駅からのアクセスは労働大学校に較べて格段に良好で(よくわかりませんが徒歩10分程度と思われます)、まあ民間のディベロッパーに払い下げて開発させたほうがいいという意見はありうるでしょう。ただ、今回のスキームはどうせ民間に払い下げるなら、もっと高く売れる土地の公務員住宅をつぶしてこちらに移したほうが建設費などを支出しても差し引き得だろうというもので、藤田副大臣もそのように説明しています。まあこの説明が妥当なのかどうかは私にはわからないのですが。
いずれにしても、こんな一等地を5年間も遊休地にしておくのはまことにムダ、というかもったいない話で、要するにその間は入るはずのカネが入らずに、逆に維持費ばかりがかかるわけですよ。遊ばせておいても一円にもならない。地元だってたぶん賛成と反対に割れているはずで、この先5年間も結論を先送りされたらどんな結論になるにしても遺恨は残るでしょう。そう考えればこれは地元にも迷惑な話で、どう考えても、民間に売るにせよ公務員住宅を建てるせよなるべく早くやるのが得策なのは明確です。つまるところ、今回の話の核心は結局用途を決められないからムダに遊ばせてますということなのですね。事業仕分けで勢いよく見直しを決めてみたものの見直してみたところどうやら建てたほうが得策らしいので建てることに決めたところに震災が起こり、復興財源の議論でまたぞろ凍結と、なんか八ツ場ダム(結局どうなったんだっけ)とかとやってることが似てるなあと思うことしきり。なんだかなあ。