神聖同盟の準備あります(ただし城氏を除くw)

さて一昨日のエントリに関連してhamachan先生が先生のブログで「ワカモノの味方神聖同盟?」というエントリhttp://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-0912.htmlを書いておられますので、私から若干のコメントを。

 さて、下にOECDの報告書を引いて遠回しにエントリを書いたら、当の労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会の使用者側委員であられる荻野勝彦さんが、まことにストレートなエントリをお書きになっておられました。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110913#p1(まあ、普通怒るよね。)

 おそらく、労務屋さん史上初めてではないかと思いますが、2ちゃんねるのニュース+板から、ものすごい量のコメントを引用して、如何にこの高齢者対策がワカモノに対して非道いものであるかを、物量作戦で証明しようとしておられるようです。

>3 :名無しさん@12周年:2011/09/13 (火) 00:39:24.02 id:C9Qxvj2I0
若者雇ってよ
6 :名無しさん@12周年:2011/09/13 (火) 00:39:43.32 ID:6eBvTB1O0
あのぉー 若者がマトモに就職できてないんですが・・・・・・
7 :名無しさん@12周年:2011/09/13 (火) 00:40:27.09 id:EXCIf77S0
また高齢者優遇・・・
労働者人口が減ってるのに、失業者増えてるって状況をいい加減にきちんと把握しろよ
8 :名無しさん@12周年:2011/09/13 (火) 00:40:52.61 id:ROpGIdzH0
代わりに若者は三年間の失業が義務付けられました
・・・・・・・・・・・・・

これって、今朝引用した本田由紀さんのつぶやきにもありましたね。

http://twitter.com/#!/hahaguma/status/113422679826112513

>政府、高齢者雇用の義務付け強化へ 企業の反発も http://s.nikkei.com/pOgrGE ネット上では「若者の雇用ェ…(・ω・`*) 」「"代わりに若者に三年間の失業が義務付けられました"」「"そりゃ若者が車買わなくなるのも無理ないな"」などのコメントが。

なんと、日頃は対立することの少なくない荻野さんと本田さんが、ワカモノの味方という一点において神聖同盟を締結することになったようです。
これに、元祖ワカモノの味方中年の城繁幸氏を入れてワカモノの味方三国軍事同盟てなことになったら、笑えます。

http://twitter.com/#!/joshigeyuki/status/113402334742196226

>年金行政の失敗の私企業への押し付けですね。副作用は若年失業と企業の新陳代謝の疎外。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-0912.htmlから、以下同じ

まず「下にOECDの報告書を引いて遠回しにエントリを書いた」とありますが、これは同じくhamachan先生のブログのエントリ、「労働のかたまりの誤謬@OECD」(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-4951.html)のことですね。
どこからどのようにコメントするのがいいのか悩ましいところですが、最初から順番に書いていきますと、

 おそらく、労務屋さん史上初めてではないかと思いますが、2ちゃんねるのニュース+板から、ものすごい量のコメントを引用して、如何にこの高齢者対策がワカモノに対して非道いものであるかを、物量作戦で証明しようとしておられるようです。

私としては一昨日のエントリで「如何にこの高齢者対策がワカモノに対して非道いものであるかを、物量作戦で証明しよう」などという意図はありませんし、実際そんなことは書いていないと思います。このエントリでの私の意図は、案の定若者(?とおぼしき)人たちから多数の(同等に多人数かは不明)反発が出ているという事実を紹介(エントリのタイトル「まあ、普通怒るよね。」もこれを反映しています)し、これに対してていねいな説明が必要ではないか、ということを申し上げることにあります。いかに私ががさつとはいえ、「ものすごい量のコメントがあるから非道いものである」などという「証明」を試みるほど無謀でも杜撰でもありません。
その上で、研究会報告などが(hamachan先生が上記「労働のかたまりの誤謬@OECD」で紹介されている)労働塊の誤謬を持ち出して説明しようとしているのは、十分な説明になっていないのではないか、ということを申し上げたいわけです。その理由は労働塊の誤謬があるといっても若年雇用への影響がゼロになるとは考えにくいこと、労働塊の誤謬の検証は早期引退などに偏っており、定年延長の場合の検証は必ずしも十分ではないという疑いがある(というか十分されているならそれを持ち出してほしい)という2点です、というところまでは一昨日のエントリでも書いていますね。

  • これは初めて書くと思いますが、欧米では退職者の補充を同等のスキルを持つ労働者の外部労働市場からの採用で行うジョブ型の人事管理が普及しているのに対し、内部労働市場の発達した日本では退職者の補充を内部労働市場で行い、最終的に外部労働市場からの採用はエントリージョブに集中するという違いがあります。それを考えると、わが国では労働塊の誤謬が欧米ほどに妥当するかどうかは疑問のようにも思えます。

さらに以前のいくつかのエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110610#p1http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110615#p1)では、私は若年雇用対策の強化が必要と思うところ、高年齢者に対して非常に手厚い雇用対策が打ち出されるという均衡を失した政策(だと私は思うのですが)がとられようとしていること、その際にあたかも若年雇用にはまったく影響がないかのような(かのような、であってそのとおりに書かれているというわけではない)半ば欺瞞にも近いような説明がされていることを考えると「若い人は本当に怒ったほうがいい」と申し上げました。
なお高年齢者雇用対策についても拡大が必要と考えていることは過去のエントリで明言していると思いますし、ただ研究会報告の記述どおりにやることがいいとは思っていないということであって、その理由や代替案も何度か書いていると思います。
ということで、「高年齢者雇用対策も必要だが、若年雇用対策はそれ以上に強化が必要」という基本的な考え方は、hamachan先生とも共通だと思いますし、たぶん本田先生とも共通だと思います。手法の違いを超えてこの一点だけでhamachan先生や本田先生と「神聖同盟」を結成することには私は決してやぶさかではありません(具体論で孤立してすぐに行き詰まりそうですが)。
なお余計なことながら本田先生に関しては「日頃は対立」というよりは私が本田先生に一方的に敵認定されているというのが私の認識であります。城氏については口先では「ワカモノの味方」を自称しているようですが、氏のブログを見ると一般的なタイプの若年に対してはきわめて辛辣であり、まあ氏としてはそうした言説を通じて若年の「意識革命」のようなものを促すことこそが「ワカモノの味方」だと本気で思っているのかもしれませんが、一般的な意味での若者の味方とはいえないような。まあこのあたりは私が半リフレ派でhamachan先生と池田信夫先生をいっしょくたにして面白がってるのと同じことですね。
さて後半部分に進みます。

実は前にも書いたように、そして後でも書くように、高齢者がどういう会社でどういう雇用形態で働き続けるのか、若者がどういう会社でどういう雇用形態で働くのか、という側面を抜きにして雇用問題が議論できませんし、その意味では単純に定年延長するという考え方には賛成できませんが、それにしても、若者の2チャンネル発言とはいえ、

>高年齢者を10万人退職させれば若年が1万人でも2万人でも新たに雇われるのならそうしてくれという若年は多いでしょう。

というのは、無批判に褒めない方がいいと思いますよ。日本から差し引き8万から9万の労働力が消えて、純粋移転所得生活者にしてしまうということは、その負担がずっしりと若者の肩にのしかかるということですから。

ほんとうは、高齢者雇用問題を根っこから議論するならば、その前の中年時代の処遇をどうするかという議論を抜きに出来ないのですが、これがまたなかなか簡単にいかないので(というか、荻野さんとしては、そう簡単にいかせるわけにも行かないのでしょうから)、どうしても定年後の処遇をがくんと落とすことで、場合によってはどこか別の会社で働いてもらうというやり方でやるしかないということになるわけですが、それにしても、社会全体で稼いで収める側に行ってもらうのか、働かずに若者に養ってもらう側に行ってもらうのか、ということが、この問題を考える上で最も重要なポイントであるということだけは、外さないで議論されることを希望しております。

まず大事なポイントとして私は別に「無批判に褒め」ているつもりはさらさらなく、ここはコメント欄にあるuncorrelatedさんの読み方の方が近くて(http://app.f.cocolog-nifty.com/t/comments?__mode=red&user_id=3288&id=85393626)「政治的不満が高まる事を指摘して」おります。だから大量になるのをいとわず「やっぱ若者も選挙に行かなきゃ駄目だな」「おいお前ら選挙に行け」なんていう書き込みまでご紹介しているわけで。で、この状況を打開するには(仮に数的不利はあるにしても)若年が政治的な手段に訴えることが必要ではないかという点は、これまた本田先生と共通する部分なのですね。
さて一昨日のエントリだけを読むと、TBしていただいた方(「高齢者雇用対策と若年失業率」http://www.anlyznews.com/2011/09/blog-post_14.html)がみごとにそう誤解されたように、私が賃金などの労働条件、職務、雇用形態などを考慮に入れていないように読めてしまうかもしれませんが、当然ながら私もそれは考慮しつつ議論しているわけで、その内容はここ数か月連投している関連の記事をごらんください。
重要なのはhamachan先生も指摘されるとおり「高齢者雇用問題を根っこから議論するならば、その前の中年時代の処遇をどうするかという議論を抜きに出来ないのですが、これがまたなかなか簡単にいかない」というところであって、私ごときがどうこうしようとしてもどうなるものでもありません。要するに従来は60歳までの片務的な長期有期雇用+65歳まで短期有期雇用というフレームワークで設計されていた企業の人事制度を、65歳までの片務的な長期有期雇用のフレームワークで作り直さなければならないわけです。これはもちろんご指摘のとおり「その前の中年時代の処遇をどうするかという議論を抜きに出来ない」でしょうし、当然ながら個別労使で認識を共有して真摯かつ誠実に議論して作り上げるしかない。現実をみれば(まあ労使の怠慢だと言われればそのとおりかもしれませんが)まだまだそんな状況にはないわけで、長期的なロードマップを持ちながら時間をかけて検討していくしかないのではないでしょうか。
なおもう一つ重要な点として、これは違う意見もあると思いますが、hamachan先生が指摘される「社会全体で稼いで収める側に行ってもらうのか、働かずに若者に養ってもらう側に行ってもらうのか」という論点が、実態として仮に「若者が働かずに親世代に養ってもらうのか、親世代が働かずに若者に養ってもらうのか」という論点であるとすると、どちらがいいのかは大いに議論があろうかと思います。で、私はくどいようですがマクロ経済成長の実現を通じて「社会全体で稼いで収める側に行ってもらう」ことができればたいへんに望ましいことだと思います。ちなみに正社員の長時間残業をやめさせてその分は若年の雇用増とかいうのは労働塊の誤謬を振り回す向きには自爆になりますのでそのようにお願いします。
あとは、

(追記)
本田由紀さんが、「一緒にするな!」(大意)と言われているようであります。
http://twitter.com/#!/hahaguma/status/113588024541069312
>予想通りの展開で苦笑。まぁ、単に高齢者を雇い続けたくないために若年雇用を持ち出す類と一緒にされるのは切ないわけだが。

あーまあそう決め付けられたらその先の議論は不可能ですよねえ。このブログの最初のエントリから(さらにはその前の書きものも通じて)、私は一貫して「引退の自由を確保しつつ一人でも多くの高齢者が元気に就労して生計を維持できるようにしたい・すべき」という立場で書いているということは、虚心に読んでいただければわかることだと思うのですが。まあ色眼鏡でみるとこうにしか見えないんでしょうね。切なさの源はご自身の心にあることに気づいていただけるといいのですが。