最低賃金引き上げは中所得層優遇策

今さらながらRIETI Hilightの最新号を見てみたところ、川口大司先生と森悠子さんの「最低賃金は日本において有効な貧困対策か?」というインタビュー記事が掲載されていました。ウェブ上にもPDFが掲載されています。
http://www.rieti.go.jp/jp/about/Highlight_27/chap8.pdf
就業構造基本調査の個票を使った分析結果ということですが、非常に興味深い内容を含んでいますので備忘的に転記…といきたいところなのですが、PDFがコピペできないん設定になってるんですよねぇこれが。
そこでポイントだけ書いていきますと、まず2002年のデータで、最低賃金水準で働いている労働者の家計面からみた属性をみると、最も多いのは世帯年収500万円以上の世帯の非世帯主で、実に過半の50.5%となっています。そこそこ豊かな家計の、いわゆる「主婦パート」や「学生アルバイト」ということになるのでしょう。逆に、家計年収200万円以下の世帯主は最低賃金労働者のうち9.5%にすぎません。ちなみに400万円以上の非世帯主は60.3%、世帯主まで含めると最低賃金労働者の66.1%と、実に3分の2は世帯年収400万円以上の世帯員ということになっています。まあ、例によってこれは2002年の古いデータであって小泉改革による格差拡大が云々という反論もありそうですが、しかしそれほど大きく変わっているということもないでしょう。「最低賃金=貧困」という先入観がいかに実態と異なるものであるかがよくわかります。ということは、最低賃金を引き上げたときにその恩恵を受ける人の大半はそれなりに十分な世帯年収のある人たちであり、救貧政策としては効率がかなり悪いということになるわけです。最低賃金引き上げは実は金持ち…とはいかないまでも、中所得者優遇政策なのです。
次に、各都道府県別に過去5年間で最低賃金引き上げで賃金の上がった人の比率と就業率の変化の相関をみたところ、大きくはないものの負の相関、すなわち最低賃金引き上げが雇用に悪影響を及ぼしたという結果が得られたとのことです。
ということで、最低賃金引き上げや生活保護制度に代わる、あるいは補完的な救貧政策として、勤労所得税額控除の導入があげられています。ただ、勤労所得税額控除が導入されて労働供給が増えると結果的に賃金が下がる、したがって勤労所得税額控除の恩恵の一部は企業に帰してしまうという問題点があることも指摘されています。
いずれにしても、民主党マニフェストの「最低賃金1,000円」は考え直したほうがいいのではないでしょうか。「最低賃金800円」にしても、勤労所得税額控除のほうを優先的に検討したほうがよさそうに思われます。