人事担当者に聞く

人事管理ネタです。職場の回覧で「労政時報」3776号(6月25日号)が回ってきたのですが、今回のメインは「本誌特別調査」ということで、「WEBアンケート 人事担当者200人に聞く」となっています。
その中に「人事担当者として、従業員の働きがいの向上のために重要と考える項目」という設問があって、10件までの複数回答になっています。選択肢は29ありますので、まあ上位3分の1を選んでくださいということでしょうか。結果として上位を占めたのは次の5つです。

会社の経営方針が明確で、共有されている 71.2%
職場のコミュニケーションが円滑である 62.6%
雇用の安定性があり安心感がある 54.0%
評価の基準と項目が明らかになっている 53.5%
率直に意見が言い合える場や雰囲気がある 52.5%

で、この調査が面白いのは人事担当者以外ビジネスパーソンを対象に同じ設問の調査を実施していることで、ビジネスパーソンがあげた上位10項目と、それに対する人事担当者の回答を並べてみますと、こんな結果になったとのことです。

                      ビジネ 人事担 ビ-人
雇用の安定性があり安心感がある       67.0% 54.0% 13.0
昇進、昇格の判断基準が明確になっている   40.8% 38.9% 1.9
福利厚生が充実している           39.6% 11.6% 28.0
評価の基準と項目が明らかになっている    39.1% 53.5% -14.4
達成した成果と給与・賞与との関係が明確*1  38.8% 47.0% -8.2
結果と過程における努力が公正に評価される*2 34.7% 42.4% -7.7
職場のコミュニケーションが円滑である    33.5% 62.6% -29.1
会社の経営方針が明確で、共有されている   32.3% 71.2% -38.9
妥当な給与水準になっている*3        31.8% 40.9% -9.1
率直に意見が言い合える場や雰囲気がある   30.1% 52.5% -22.4

*1達成した成果と給与・賞与との関係が明確で頑張れば給与が増える期待を持てる
*2運・不運に左右されず、結果と過程における努力が公正に評価される
*3世間水準と比較して、あるいは、仕事の成果に対して妥当な給与水準になっている

この結果をどうみるかですが、とりあえず人事担当者の上位5項目はすべてビジネスパーソンの上位10項目に含まれていて、その他の「昇進、昇格の判断基準」は人事担当者の13位、「福利厚生」は24位、「達成した成果と給与・賞与」は6位、「努力が公正に評価」は9位、「妥当な給与水準」は11位となっています。順位だけみれば、「福利厚生が充実している」以外はそこそこ一致しているともいえるでしょう。
ただ、具体的な数字をみるとかなり乖離があります。これだけみると*1全体的にビジネスパーソンのほうが数字が低い傾向があり、回答が分散したものと思われます。加えて、人事担当者が「会社の経営方針」「職場のコミュニケーション」「率直に意見が言い合える」といったコミュニケーション系の項目を重視しているのに対し、ビジネスパーソンはそれほどでもなく、その乖離は22.4〜38.9パーセントポイントにも及んでいます。逆に、ビジネスパーソンは「雇用の安定・安心」「福利厚生」を重視しており、人事担当者との乖離も大きくなっています。また、それほど顕著ではありませんが、ビジネスパーソンのほうが給与水準、評価、昇進昇格といったことを重視する傾向もありそうです。
これはうなずけなくもない結果で、人事担当者はその習い性としてどうしても「コミュニケーション」を重視しがちだということなのでしょう。それに対して、人事担当者以外はもっと実質的な労働条件のほうに目が向きがちということで、これもまあ自然なことなのかもしれません。問題はこのギャップの背後になにがあるのか、ということで、職場のコミュニケーションがすでに良好で、それが働く人にとって所与の前提になっているために、かえってコミュニケーションに対する働く人の関心が低下しているのであれば、これはむしろ望ましいことだとも申せましょう。逆に、コミュニケーションも良くはないが、それ以上に労働条件が低すぎることの反映だとしたら、これはかなりヤバい感じが漂うわけで、もちろんこの調査結果はその両方が含まれたものなのだろうと思います。ただ、ビジネスパーソンが重視している「雇用の安定・安心」や「福利厚生」については、近年とみにそれが喪失・抑制されているといわれている項目であり、この結果もその反映とみることができるかもしれません。喪失・不足が関心として現れる傾向があるのだとしたら、コミュニケーションの問題は大きくないとみることはできそうです、と自己弁護を試みてみる(笑)。まあ屁理屈でしょうし、それならそれで賃金水準や評価や昇進昇格も喪失・不足だと反省しなければならないわけではありますが*2
ちなみに、この調査の回答者(人事担当者)の属性をみてみると、53.0%が経験年数10年以上のベテランで、なんと52.8%が「転職経験あり」とのことです。企業規模1,000人以上に限っても39.7%が転職経験ありで、人事担当者というのは実は労働市場でつぶしのきく専門性を有する、流動性の高い職種だったようです。うーん、これは私にはかなり意外でしたが、そうでもないのでしょうか?

*1:残念ながら「労政時報」誌にはビジネスパーソン対象の調査結果はこれだけしか記載がありません。

*2:もっとも、そもそも賃金水準や評価や昇進昇格への不満がなくなるということは常識的に考えられないわけですので、こうした事項が関心事項の上位にあがるということは、逆にいえば他に不満がないということの反映ではないかと、自己弁護の上塗りを試みてみる私(笑)。