野党時代の長妻昭氏

きのうのエントリを書いていて、毎日jpの記事に長妻大臣が野党時代に「社保庁職員はハローワークに行け」と言ったと書いてありましたので、本当に言ったのかなあと思ってざっと調べてみたのですが、公式な記録でダイレクトにそう発言したというものはみつかりませんでした。まあ、私の調べ方がザルで、どこかで言っているのかもしれませんが…。
すぐに見つかったのは、長妻大臣が野党時代の、官民人材交流センターの設置をめぐる議論の中での「公務員だってハローワークにいけばいい、センターは不要」という趣旨の発言です。で、今回の社保庁懲戒職員の救済のあれこれに関して自民党中川秀直氏のブログで中川氏の秘書がこれをとりあげて、「なぜ、ハローワークに行けと言わないのか」と揶揄していて(http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10394204908.html)、これが「社保庁職員はハローワークに行けと言った」という記事になっているのではないかと私としては想像しております。
ちなみにその発言は国会会議録にしっかり載っていますし、長妻大臣自身のウェブサイトにも活動報告として誇らしげに?掲載されています。まあこれも国会会議録のコピペだと思いますが、やや読みにくいので一部省略しながら引用します。ということでかなり古いネタですみません。

○長妻委員 …まず、私の素朴な疑問として、一般の方は就職情報誌とかあるいはハローワークで再就職先を探されるわけでありますけれども、何で官僚の方は、就職情報誌とかあるいはハローワークに行って仕事を探す、この際あっせん仲介を全面的にやめて、そういうことを、なぜハローワークに行って探されないんですか、仕事を。

○渡辺国務大臣 これは何度もこの委員会で答弁をしてきたことでございますが、まず、今回の法案においては各省による天下りあっせんを全面的に禁止いたします。したがって、今行われている極めて特権的な天下りあっせんができなくなるということでございます。また、在職中の求職活動についても制限をいたします。罰則もついております。…ですから、このような制約の中で、身分保障のある公務員について一切再就職の支援もしないという場合には、定年前にやめる場合でありますが、なかなかやめない、身分保障を盾に役所にしがみつく、こういうことになりかねない、これは我々の目指す行政の減量化の妨げになりかねないということがあるわけでございます。
 我々は簡素で効率的な政府を目指しております。スタッフ職のように一方において定年まで勤められる、こういう道もつくるわけでございますが、公務員の定員の純減という目標を掲げているわけでございますから、まさしくそういった行政の減量化を考える場合には、こうした各省あっせんにかわる仕組みが必要だと考えております。

○長妻委員 そうすると、渡辺大臣の今おっしゃられたことというのは、ハローワークよりも人材バンクの方が仕事が見つかりやすい、こういうことでございますか。

○渡辺国務大臣 民間人の場合は、転職するときには同業他社などの関係業界に再就職するのがよくあるケースであります。しかし、公務員の場合には、公務の中立性という観点から、関係業界への求職活動とか転職後の口きき規制、刑事罰を伴った制約がございます。したがって、一定の再就職支援を行う合理性がこの点でもあるわけでございます。
 民間企業でも、リストラ解雇などの場合には雇用主として再就職支援を行うことが広くなされているのは御案内のとおりであります。また、高齢者雇用安定法においては、中小企業も含めて、再就職とか定年延長とか、そういった義務づけを課しているわけであります。したがって、政府が今後役所のスリム化のために解雇や勧奨退職を行うという場合には、雇用主の姿勢として一定の再就職支援を行うというのは当然のことでございます。

○長妻委員 ですから、ハローワークより人材バンクの方が仕事が見つかりやすい、こういう御理解ですか。…

○渡辺国務大臣 ですから、我々は、最初から公務員はハローワークに行けという制度にはしていないんですね。先ほども申し上げたように、行為規制もかけます。…ハローワークにいきなり行けという制度は我々は考えていないんです。なぜならば、求職活動の制限をやっているんですよ。それはなぜ求職活動を制限しているかといったら…それは簡単なことですよ。公務の公正さとか中立性とか、そういうことが担保されなければいけないからなんです。
 ですから、要するに、再就職を相当制限しながら、民主党案のように全面的に制限しながらハローワークに行きなさいという制度と我々のように官民人材交流センターの比較をした場合には、それは官民人材交流センターの方が再就職先が見つかりやすいのは当然だと考えております。

○長妻委員 例えば、公務員は何か特別な職業だと言われましたけれども、私、地元ではこういうことを言われましたよ、支援者の方から。そうしたらば、自分は流通業に勤めているから、流通業も特別な職業といえば特殊な職業だから、流通業あっせん人材バンクを税金でつくってくれ、スペシャル版をと言われましたよ。運輸業の方にも言われましたよ。運輸業だって特別なんだから、公務員も特別かもしれないけれども、そうしたら自分たちも税金で、もっとハローワークより就職が見つかりやすい運輸業専用あっせん人材バンクをつくってくれと。何で公務員だけつくるんですか。制限があるといっても、ハローワークに行ってきちっと事後チェックするんでしょう。ハローワークに行った公務員を追跡調査して事後チェックすればいいじゃないですか。ハローワークを改革してくださいよ、この際。
 私、渡辺大臣の根底に流れているのは官尊民卑の発想だと思いますよ。私の議員会館に官僚の方を呼んでこの天下りバンクの説明を聞いたときに、官僚の方に私、聞いたんです、何でハローワークに行かないんですかと。いや、長妻さん、ハローワークじゃ仕事が見つからないんですと。では見つかるようにしてくださいよ、ハローワークを。厚生労働省の管轄でしょう。厚生労働省の役人もハローワークに行かないでスペシャル版の天下りバンクに行くわけでしょう、自分たちだけが。それはおかしいじゃないですか。いろいろ理屈はあるでしょう、公務員が、守秘義務が、何だこうだ。それ全部、ハローワークでも個々の公務員を追跡調査すれば、かけることができるんですよ。
 この際、ハローワーク改革の絶好のチャンスだと私は思います。人材バンクをやめて、天下りバンクをやめれば、ハローワークに公務員がいっぱいお客さんとして来る、それをきっかけにハローワークを、きちっと仕事が見つかるさらにいい場所に変えましょうよ、お互い、与野党を超えて。

(2007年6月6日衆議院内閣委員会)

http://naga.tv/070606naikaku.htm

うーん、まあ野党時代の発言ですからおおいに割り引いて考えなければ長妻氏に不公平だとは思うのですが、それにしてもこういう人が大臣をやっているのですから厚生労働官僚もアタマが痛いことでしょう。
渡辺大臣(これはみんなの党渡辺喜美氏ですな)の答弁は基本的にいたってまっとうなもので、現職で退職の潮時が近づいてくれば官民を問わずその先の再就職のことを考え始めるのは当然で、そのときに官僚は自分の管轄している業界や企業、団体等になんらかの働きかけをしたり、逆に働き方を受けたりする可能性はあるだろう。だとすると、官僚としての仕事がその業界や企業よりになってしまって、公務に公正中立を欠くことになるのではないか。だから官僚には直接求職活動をさせずに、官民人材交流センターをつくってそれを通じて再就職させるのだ、ということでしょう。で、このやり方では民主党が問題視している天下りの対策としては効果が期待できない、ということをこの議論の直前で指摘していて、それはたしかにそうだろうという議論になっています。ところが、だからどうするのか、という議論にはなぜかならずに、長妻氏は「民間に較べて優遇されていてけしからん」という議論に進んでしまっています。
ただ、これも渡辺大臣が答弁で触れていますが、民間人はハローワークも含めていろいろな手段で求職活動ができるけれど、公務員はそれにかなりの制限がある。そこでセンターを設置して、はたしてそれが優遇といえるかどうかという議論をすべきなのに、長妻氏は制約がある公務員がハローワークに行く場合とセンターを活用する場合とを比較させ、センターのほうが再就職しやすいという回答をもって「民間より優遇している」と主張しているわけです。これはあまり理屈として整合性のある議論には見えないように思います。
さらに、まあこれは地元の支援者の意見だということですから長妻氏に直接の責任は問えないかもしれません(そうでもないか)が、公務員が特別というなら流通業も特別、運輸業だって特別だというのは、それでは流通業者や運輸業者が公正中立が必要な公務に従事しているのかという議論でなければならないわけでしょう。
あと、「人材バンクをやめて、天下りバンクをやめれば、ハローワークに公務員がいっぱいお客さんとして来る、それをきっかけにハローワークを、きちっと仕事が見つかるさらにいい場所に変えましょうよ」というのは面白い論点で、長妻氏は官僚が「ハローワークじゃ仕事が見つからないんです」と言ったといいますが、これはその官僚の経歴や能力に見合った仕事が見つからない、という意味でしょう。実際、民間企業のほうも、経営幹部や高度な専門職を外部からリクルートしようとしたときには、まずハローワークには行きません(まあ、タダですから行くことは行くかもしれませんが、期待はしないでしょう)。そうした職に転職しようという人も同様で、どうするかというと、転職仲介業者に頼むわけです。経営幹部などのポストになると、求人側も求職側もいろいろと条件がついて、マッチングが難しくなるので、ハローワークのマスプロマッチングではなかなか容易ではありません。結局、きめ細かく個別の対応ができる人材ビジネス業者が利用されるわけです。長妻氏は職業紹介は数合わせ、のような発想があるようですが、実際には質的な相違が大きく、ハローワークはどちらかというと熟練度や専門性があまり高くない求人・求職のマッチングを得意としているわけです。こうした求職者は経済力があまり高くないことが多く、したがって無料の職業紹介サービスが公的に提供されることはセーフティネットとしても必要かつ有意義です。
そういう状況の中で、長妻氏がいうようにハローワークが公務員がどんどん経歴や能力に見合った仕事とマッチングするようなものに変えていくとなると、これはたしかに大改革ですが、具体的にどうするかというとかなり難しいものがあります。というか無理でしょう。派遣の禁止どころか、人材ビジネスを全面禁止し、転職はすべていったん職安に求人を出さなければならない、中途採用もすべて職安に求職を出さなければならない、そのうえで職安の職員を大幅に増やし、その財源を確保し…くらいのことをやらないといけないわけです。それを大真面目に(いや、冗談かもしれませんが)与野党を超えてやろうと言う人が今は厚生労働大臣なんですから*1・・・orz

*1:まあ、労働分野はほぼ細川副大臣に任せているようなんですが。