高速道路

今日も予定通り引っ張り続けます。日経ビジネス「だから女は働かない」から。「女性活用って言うな!」の続きです。ゴールドマンの次はユニクロ、そしてP&Gです。ユニクロの事例は業務効率化と時短で「長く働くことは逆に無能」という風土改革がなされた、というもの。何をいまさらという企業も多いでしょうが、長時間労働こそ善という風土の会社もまだまだあるのでしょうね。
続くP&Gといえば、泣く子も黙る(のか?)ダイバーシティ先進企業ですが、それでも「まだまだ」という事例になっています。特集の前の方では、これまた女性活用先端事例のニチレイが「まだまだ」だ、という記述もある(あまり具体的なものではありませんが)くらいで、まあ実際先進企業だって完璧(をどう考えるのかという問題があるわけですが)ではないということでしょうか。

 例えば、生活も仕事も充実している社員を表彰するコンテストを新たに作った。この人こそがふさわしいと思う人を社員が投票する。「同じ部署のあいつ。夜中に会議があっても、一度帰宅して必ず家族と飯を食うらしい。投票してみるか」。
 そして栄えある受賞者をダイバーシティーフォーラムで発表する。自分が推した社員が選ばれたかどうか、確認のため数多くの社員がフォーラムに足を運ぶ。
 「WLBについて男性社員にもっと関心を持ってもらわないといけない」。WLBを女性から解放するための仕掛け作りをする牧野氏の試みは実を結びつつある。
 「人生は高速道路」と牧野氏は語る。スピードを上げて走ってもいいし、高速を降りて寄り道をしてもいい。会社の役割は、多様な働き方を選べるように、いくつもの道を作ることにある。それが真のダイバーシティーであり、WLBでもある。そこに男性社員も女性社員も違いはない。
 常識の罠にはまる企業は少なくない。「もう女性活用とは言わない」。女性の力を本気で活用するのであれば、それを肝に銘じるべきだろう。
(「日経ビジネス」2008年3月10日号(通巻1432号)から、以下同じ)

さてP&Gですが、この短い文章の中に重要なポイントがふたつふくまれています。ひとつは「同じ部署のあいつ。夜中に会議があっても、一度帰宅して必ず家族と飯を食うらしい」という話。なにかというと、ワーク・ライフ・バランスも働き方の見直しもけっこうですが、通勤時間というものの存在を無視した議論は意味がありませんよ、ということです。要するに、片道90分、往復3時間の通勤をしている人が「一度帰宅して家族と食事」なんてことができるわけがないのです。私は通勤片道30分弱くらいのところに住んでいますが、これだと昼休みに家に置いてある資料を取りに帰ることができます。「一度帰宅して家族と食事」となると…食事自体は正味30分かからないとしても、残業中に食事のために割ける時間はやはり1時間そこそこ、となると片道20分が限度でしょうか。育児時間にしても時間休にしても、通勤時間が長くなればなるほど意味がなくなるわけです。こうした議論では往々にして通勤時間が忘れ去れれがちで、企業にどうこうしろとも言えないから無視されるのかも知れませんが、しかし企業としてもたとえば通勤手当を廃止してその原資を別の賃金項目に振り向けるとか、やれることはあるはずです。実際、実費を支払う通勤手当は長距離通勤・長時間通勤への補助金ですから、ワーク・ライフ・バランスの推進には逆行するものではないでしょうか。
もうひとつは、「人生は高速道路」という例えで、これはなかなかいい例えかもしれません。「スピードを上げて走ってもいいし、高速を降りて寄り道をしてもいい。会社の役割は、多様な働き方を選べるように、いくつもの道を作ることにある」というのもまさにそのとおりでしょう。そして、そこには「速く走ったものほど遠くに到達する」という覆しがたい真理が存在します。1日24時間という時間は誰にも同じですが、運転するクルマの性能は(同じが理想だとしても、現実にはさまざまな理由で)違いがあります。運良く?速いクルマに恵まれれば、目一杯に飛ばしてはるか遠くを目指すしてもいいですし、せっかく速いクルマなのだから寄り道も大いに楽しんでほどほどの距離を目指すこともできるでしょう。運悪く遅いクルマに当たってしまったら、それでも精一杯頑張って少しでも遠くをめざすのもいいでしょうし、どうせ遠くには行けないのだからと割り切ってゆっくり走るのもいいでしょう。それがまさに「キャリアデザイン」というものであり、ダイバーシティやWLBがキャリアデザインと切っても切れないゆえんでもあるのでしょう。