その2(笑)

こういうのにマジレス?するのもどうなのかなぁとも思いますが、ブログが滞り気味なので、今日も城繁幸氏のブログから。いやはや、ネタの提供ありがとうございます。
城氏はご自身のブログの本日のエントリ(http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/6f5d0b25365a87d8bb83a9944534f208)で、政策研究大学院大学准教授の桑原進先生が日経ビジネスオンラインに載せた「不況が自殺を増加させるのはなぜか」という論考(http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090608/196996/)をこきおろしています。
あらかじめ申し上げておきますが、私は別に桑原氏の見解にすべて賛同しているわけでもなんでもありません。申し上げたいことも多々ありますが、以下に述べるのはそれ以前の問題です。

 日経ビジネスのコラムで、内閣府の官僚が日本人の自殺率増加を取り上げているのだが強い違和感を感じる。著者のスタンスは以下の一文にはっきりあらわれている。


 すなわち経済社会全体で、解雇が容易な非正規雇用の増加を防ぐことと、正規職員についても安易な整理解雇や強要に近い退職勧奨を防ぐことが重要です。


 要するに、流動化なんてもってのほかというわけだ。

 でもね、失業率と自殺率は比例すると言いつつ、流動化に反対する理由がわからない。
 つまり現在の非正規雇用及び失業者はしょうがないよね
 諦めてねってことなのか。
http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/6f5d0b25365a87d8bb83a9944534f208、以下同じ)

「つまり現在の非正規雇用及び失業者はしょうがないよね/諦めてねってことなのか」って、そりゃいくらなんでもいいがかりでしょう。たしかに「解雇が容易な非正規雇用の増加を防ぐこと」という文章は、増えなければいい、つまり現在の非正規雇用はそのままでいい、と読めるかもしれません(かなり悪意のある読み方ですが)。しかし、この前後の文章を読めば、桑原氏が非正規雇用はなるべく少なく、失業もなるべく少なくありたいと考えていることは明らかです。

 そもそも、本当に失業率と自殺率は因果関係にあるのか。
 もしそうだとすれば、なぜ平時でも失業率10%前後の雇用崩壊国家フランスのそれは日本より低いのか。
 著者のロジックなら日本人の倍以上、フランス人は死んでいるはずではないか。
 そして、悪の資本家の巣窟であり、安易な整理解雇し放題の英米のそれは、なぜそのフランスよりもさらに低いのか(WHO調査)。
 労働市場が流動化しつつも、日本の自殺率の半分以下ではないか。

いやはや、これまた凄い言いがかりで。
まず、「本当に失業率と自殺率は因果関係にあるのか」というのは実証の問題で、たとえばESRIが平成18年に実施した「自殺の経済社会的要因に関する調査研究」(http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou018.html)なんかが参考になりましょう。桑原氏もこの論考でなかなか説得力あるグラフを提示しています。とりあえず「相関」がある、というのは大方の同意を得ているのではないかと思います。
で、そのあとの「もしそうだとすれば、なぜ平時でも失業率10%前後の雇用崩壊国家フランスのそれは日本より低いのか。」ってのには思わず吹きました(笑)。それこそ、hamachan先生にでもお尋ねになってみっちり(ryフランスの失業保険は日本よりはるかに充実していて(それでも近年かなり縮小されたのではありますが)、2年近く給付がある上、それが終了してもさらにASSという給付が受けられます。こうした社会制度の違いがありますし、国際比較をするならおそらくそれ以上に、宗教や国民性の違いなども影響するでしょう。「著者のロジック」は日本における時系列の推移を論じているのであって、それで自殺対策の政策論には十分です(先に紹介したESRIの研究も同様です)。国際比較を論じているわけではありません。

 著者の経歴は、典型的なキャリア官僚のそれだ。
 内閣府から、内閣府厚労省天下り団体である連合総研を経由してアカデミズムへ。典型的“御用学者”養成コースだ。
 連合総研という時点で、どんなバイアスを持っているのか明らかだろう。

 スポンサー様のための世論誘導か、単に実務が分からないだけなのかは知らないがこういうテーマで二度と発言するなといいたい。

 いやー、この「キャリア官僚=悪」という短絡が佐高チックでたまりませんねぇ。「御用学者」とか、こういうのを読んで気持ちよくなる人も多いんだろうなぁ。
 それはそれとして、これはご存知ないだけだと思いますが、連合総研の労組出身者はたしかに強烈な(失礼)バイアスをお持ちですが、内閣府あたりから出向した人(に限らず、通常のエコノミストキャリアの人)は、連合総研にいる間は組織の事情に応じた仕事もするでしょうが、連合総研を離れると元に戻ってしまうというのは業界の常識なわけで(違う?)。また、政策研究大学院大学はたしかにアカデミズムといえばアカデミズムですが、しかし役所に復帰する可能性がかなり高い職場です。そのまま学者になる人がどれだけいるかというと、とりあえず「典型的な」とまではいえないような。しかも桑原氏は内閣府出身、ということは旧経済企画庁の流れをひいているわけで、城氏が敵視している厚生労働官僚とは違うわけで。桑原氏には連合(総研)や厚生労働省がスポンサーだという意識はおそらくまったくないでしょう。