賃下げで雇用を守れ

思いのほか長引いていますが、池田先生のブログを材料にもうひとつ。2月12日付の「賃下げで雇用を守れ」http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/3860f1976926495bfe2223dd24bcc084です。

 ソニー全日空東芝、パイオニアなどで、賃下げの動きが広がってきた。「ワークシェアリング」などという曖昧な話ではなく、賃下げこそ雇用維持の切り札である。年収1500万円の中高年正社員の賃金を2割下げれば、非正規労働者の雇用が1人守れる。
 名目賃金の下方硬直性が失業をまねくことは、1930年代以来、定型化された事実であり、このタブーを打破することによって失業率の上昇を阻止できる。賃下げによって「乗数効果」で有効需要が減るというのは神話である。賃下げで雇用が増える効果は雇用者数=賃金原資÷賃金という四則演算で明らかだが、乗数効果は理論的にも実証的にも成り立たない。むしろ賃下げによって労働需要が喚起され、中国などとの国際競争にも耐えられるようになる。派遣労働の規制を強めて雇用コストが上がると、海外へのアウトソーシングによって空洞化が進む。そして国内で雇用されない若者が大連に行って、年収75万円になる。これがグローバル資本主義の現実だ。
 今年は2009年問題などもあいまって、年度末に完全失業率が10%に近づくことが懸念されている。非正規労働者だけに雇用調整をしわ寄せするのはもう限界であり、不公正である。連合の賃上げ要求は、非正規労働者を犠牲にして正社員の既得権を強化しようというエゴイズムだ。今年の春闘は、経営者の側から賃下げを提案する「逆春闘」にしてはどうだろうか。

雇用を維持するためにウェイジ・シェアリングが重要だ、というのはまったくご指摘のとおりだろうと思います。で、実際に仕事もないのであれば、その分早く仕事を終わって帰宅すればよろしい。そうなるとワーク・シェアリングになります。「名目賃金の下方硬直性が失業をまねく」というのは先般のデフレ期にわれわれ実務家も痛いほど思い知らされました(と思うのですが)。
いっぽうで、実務実感からすると、残念ながら「雇用者数=賃金原資÷賃金という四則演算」がどのような形で実現するのかは微妙です。赤字決算を余儀なくされている中では、賃金原資も縮小を迫られています。雇用者数は不変で、賃金原資と賃金が減少するという実現になる可能性は相当あります。おそらく現実に起きるのは、多くは「年収1500万円の中高年正社員の賃金を2割下げ」ることによって、「非正規労働者の雇用が1人」分の賃金原資を縮小させ、赤字をその分縮小させることではないかと思います。この場合、非正規の雇用は守られません。
そもそも、現に仕事がないにもかかわらず雇用を維持するというのはそれ自身不自然なことであり、それをあえてやるのは、それによって来るべき増産期に円滑・早急に増産・拡販を実現するためでしょう。であれば、企業は人材育成投資を行い、熟練が蓄積された中高年正社員の雇用は維持するとしても、特段の投資も行われておらず、熟練もない非正規労働者の雇用を維持する必要性は低くなります。実際、非正規労働者を削減しても、次の増産期にまた採用することは、少なくとも当分の間は比較的容易でしょう。であれば、雇用を維持する理由はますますなくなります。もちろん、それでも雇用しておきたい非正規もいるだろうとは思いますが、現状のような局面で、企業に仕事のない非正規雇用の維持を期待するのは相当無理があります。
また「むしろ賃下げによって労働需要が喚起され、中国などとの国際競争にも耐えられるようになる」というのも、そもそもの賃金水準の格差の大きさに加え、この円高ですから、あまり現実的ではありません。まあ、差は縮まるわけですから、その分競争力は高くはなりますが…。
非正規労働者だけに雇用調整をしわ寄せするのはもう限界であり、不公正である」というのは、不公正かどうかはともかくとして、たしかに非正規だけに雇用調整をしわよせできなくなってきたから賃下げの動きが出ているのでしょう。いっぽう、連合は(池田先生は「理論的にも実証的にも成り立たない」と断じておられますが)賃上げによって内需拡大・景気回復という主張を(たぶん本気かつ大まじめに)しているわけですから、「連合の賃上げ要求は、非正規労働者を犠牲にして正社員の既得権を強化しようというエゴイズムだ」と言われたら怒るかもしれません(別に私は連合に特段の義理はありませんが)。いっぽう、「今年の春闘は、経営者の側から賃下げを提案する「逆春闘」にしてはどうだろうか」というのは、好むと好まざるにかかわらずそうなりそうな感じはしますが。