キャリア辞典「非正規労働」(3)

「キャリアデザインマガジン」第83号のために書いたエッセイを転載します。

 昨年後半以降、非正規労働者の雇用失業情勢が大きく悪化しているといわれる。厚生労働省はその実態を把握すべく、全国の労働局及び公共職業安定所が実施した事業所に対する任意の聞き取り等の結果を集計している。平成21年の1月報告(速報)によれば、派遣又は請負契約の期間満了、中途解除による雇用調整及び有期契約の非正規労働者の期間満了、解雇による雇用調整について、昨年10月から本年3月までに実施済み又は実施予定として、1月26日時点で把握できたものは、全国で1,806事業所、約12万5千人となっているという。厚生労働省も注意を促しているとおり、これは通常業務の中で把握できたもののみの集計であって、これが全てであるということではない。
 内訳をみると、直接雇用である契約社員などは約23,000人と2割に満たない。派遣社員が約86,000人と3分の2以上を占め、請負は約10,000人、残りがその他となっている。
 もっとも、派遣や請負には、派遣会社や請負会社のそれぞれ正社員として雇用されている人が含まれている。平成16年に厚生労働省が実施した「派遣労働者実態調査」によれば、派遣社員の26%が期間の定めのない雇用で就労しているし、平成17年にやはり厚生労働省が実施した「労働力需給制度についてのアンケート調査」によれば、請負労働者の43%が期間の定めのない雇用、または定年までの雇用で就労しているという。この割合をあてはめれば、派遣・請負約87,000人中の約27,000人は正社員ということになり、雇い止め等が即座に失業に結びつくというわけではない。
 さて、さらにその内訳をみていくと、派遣については期間満了で契約が終了した人が約38,000人なのに対し、期間途中での解約、いわゆる「派遣切り」に該当する人が約43,000人と多数を占めている(残り約5,000人は不明)。期間満了で終了することは当然なのでルール上はなんら問題はないが、この人たちは次の派遣先が見つからなければ失業者となるリスクが高い。いっぽう、中途解約は基本的に一方的に行うことは許されないはずなので、違約金の支払などにより派遣会社と派遣先会社とが合意の上で解約するのが原則ではある。この場合、派遣会社と派遣社員との雇用契約は派遣契約の期間とされることが一般的なので、派遣会社と派遣社員との雇用契約は継続しており、派遣社員は賃金を受け取ることができる。実は、理屈上は「派遣切り」のほうが即座に失業につながる危険性は低いわけだ。また、派遣先・派遣元は新たな派遣先のあっせんなどに努めるべきことが指針に定められてもいる。とはいえ、これらの原則がどれほど実現しているかについては疑問もあろう。
 さてこれが契約となると、契約期間満了にともなういわゆる「雇い止め」が約19,000人と太宗を占め、期間途中の契約打ち切り、すなわち解雇は約4,000人と比較的少数にとどまる。派遣の中途解約は派遣会社との間で金銭解決などの「手打ち」ができるのに対し、直接雇用の契約社員となるとそうはいかないことが反映しているのだろう。ちなみに派遣同様に会社同士での「手打ち」が可能な請負においても、期間満了が約3,000人に対して中途解除が約6,000人と多数となっている。
 当然のことながら、期間を定めた労働契約や派遣契約、請負契約を期間途中で一方的に解約することは基本的にできない。実際、有期雇用労働者の期間途中での解雇には、期間の定めのない、いわゆる正社員の解雇より厳しい制限が課されている。今回の雇用調整局面の初期においては、こうした事実が必ずしも周知されておらず、結果として安易に「派遣切り」や契約社員の解雇を実施した企業が散見され、社会の指弾を受けた。時の経過にともなってそれは周知されて是正されてきたようだが、適切な対処が望まれる。
 また、かねてから「2009年問題」として指摘されてきたが、2009年には製造派遣の相当数が期間満了を迎えることが見込まれているが、現下の経済情勢ではこうした人たちが新たな派遣先を得られるか心配せざるを得ない。これにとどまらず、今後非正規労働の雇用失業情勢は悪化が避けられないだろう。すでに政府において検討が進められ、一部は実施に移されてもいるようだが、一段の政策的対応が求められるところだろう。