キャリア辞典「非正規労働」(2)

「キャリアデザインマガジン」第82号に載せたエッセイを転載します。



 非正規労働とはなんだろうか。「非」正規労働というからには、正規労働というものがあり、その補集合が非正規労働であるのだろう。それでは、正規労働とはなにか。
 Wikipediaには「正規雇用」という項目があって、「特定の企業(使用者)と雇用者との継続的な雇用関係において、雇用者が使用者の元でフルタイムで従業する期間を定めない雇用形態を指す。」とされている(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E8%A6%8F%E9%9B%87%E7%94%A8、平成21年1月26日ダウンロード)。ウェブ上で論文などをあたってみても、たとえば「一般に正規雇用は,1)使用者による直接雇用,2)期限のない雇用契約(常用雇用),3)通常の労働時間による就労(フルタイム)の3条件をすべて満たしている雇用形態をいう」などとされている(伍賀(2000)、http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/501/501-2.pdf、同)。派遣社員は1)に、契約社員(有期雇用)は2)に、パートタイマーは3)にそれぞれ該当しないので、「非」正規雇用となる。
 もっとも、この定義で万全かというと、必ずしもそうでもないかもしれない。世間には「フルタイムパート」という矛盾した表現の働き方があり、その中には少数ながら期間の定めのない雇用で働いている人もいるからだ。こうした人たちは上記の1)〜3)にすべてあてはまっているが、しかし自分が「正規雇用」だとは思っていないだろう。また、なにかと問題視される「請負」についても、請負会社の正社員であればいずれにもあてはまる。これが「正規雇用」かどうかは人により見解が異なるかもしれない。いっぽう、育児時間などで勤務時間短縮している正社員は、厳密にいえば3)に該当しないが、これを非正規雇用ということは少ないだろう。
 行政による定義はどうだろうか。厚生労働省が数年毎に実施している「就業形態の多様化に関する総合実態調査結果」では、「正社員」を「雇用している労働者で雇用期間の定めのない者のうち、パートタイム労働者や他企業への出向者などを除いた、いわゆる正社員」と定義し、それ以外は「「契約社員」、「嘱託社員」、「出向社員」、「派遣労働者」、「臨時的雇用者」、「パートタイム労働者」、「その他」を合わせて「正社員以外の労働者」とする」としている。厳密にいえば派遣労働者は「雇用している」とはいえないが、間接雇用ということで広義に含めているのだろう。あるいは、派遣労働者は本来の雇用主である労働者派遣業者のみに該当する区分なのかもしれない。これだと、派遣労働者が派遣先・派遣元でダブルカウントされる可能性もありそうだが、どうなのだろうか。同様に、請負会社への発注元がその請負労働者を「その他」に含めて回答する可能性もあるかもしれない。また、出向元で正社員である出向者を「非正規労働」とするのは、実感にあわない人も多いかもしれない。
 また、総務省が毎月行っている「労働力調査」では、「雇用者については,勤め先での呼称によって,「正規の職員・従業員」,「パ−ト」,「アルバイト」,「労働者派遣事業所の派遣社員」,「契約社員・嘱託」,「その他」」に区分している。就業実態ではなく呼称で区分しているわけだが、これは労働力調査が個人に就労状況をたずねる調査なので、個人がわかりやすい定義を採用しているのだろう。これであれば、「フルタイムパート」は「パート」、まだ少数ではあるものの「短時間正社員」は「正規の職員・従業員」に含まれることとなろう。これだと、請負会社の正社員は、勤め先を請負会社とすれば「正規の職員・従業員」になるが、派遣会社の正社員になっている常用派遣は「労働者派遣事業所の派遣社員」なのか「正規の職員・従業員」なのか、迷うところだ。
 このような概念には多かれ少なかれ操作的な部分はあるし、どのように区分しても曖昧な部分は残るわけだが、それにしても働き方の多様化が進む中で、グレーゾーンもまた拡大しているといえそうだ。