出産育児一時金で景気対策(笑)

25日のエントリでご紹介した「出産育児一時金に関する意見交換会」ですが、きのう無事?開催されたようです。ネット上のニュースで報じられていましたのでまずは引用します。

 手元にお金がなくても安心して妊娠や出産ができる環境をつくろうと、出産育児一時金に関する意見交換会が11月27日、厚労省内で開かれ、舛添厚労相は席上、来年1月に3万円を引き上げることが決まっている一時金を、国費を投入してさらに引き上げる考えを示した。来年度予算の確保に向け、財務当局と折衝する。意見交換では、出産費用に地域格差がある状況を踏まえ、一時金を都道府県ごとに決める仕組みに切り替えるべきかどうかを話し合ったが、「都道府県ごとの設定は地域格差を生む」(藤原淳・日医常任理事)などの慎重論が相次いだ。このため舛添厚労相は、「地域による格差は付けない」と表明した。
 意見交換ではまた、妊婦が出産後に一時金を受け取る現在の仕組みを改め、医療機関に直接支払う形に切り替える方向でも意見が一致した。厚労省は、来年度内の制度見直しを検討する。
 舛添厚労相は9月29日の所信表明演説で、妊娠や出産費用の不安は「いつ自分を襲うやも知れぬ問題だ」と述べ、不安解消に努力する考えを示していた。厚労省によると、意見交換会は舛添厚労相の指示を受けて設置し、この日は日本医師会日本産科婦人科学会健康保険組合連合会など関係団体から14人が参加した。
 現在の仕組みでは、出産育児一時金は全国一律35万円に設定され、妊婦は出産費用をいったん医療機関に支払い、出産後に保険者に請求して一時金を受け取っている。これに対し意見交換では、一時金を都道府県ごとに設定するかどうかや、医療機関に一時金を直接支払う形に制度を見直すべきかが論点になった。
 都道府県ごとの一時金の設定には、関係団体から「都道府県ごとの設定は地域格差を生む」(藤原淳・日医常任理事)などの慎重論が相次いだ。こうした方向への賛成意見はなかった。一方、医療機関に直接一時金を支払う形に対しては、「公立病院の(費用)未払いを防止する意味で重要」(岡本喜代子・日本助産師会会長)など前向きな意見が大勢を占めた。

 吉村泰典・日本産科婦人科学会理事長は、「地方を厚くすることを考えないと駄目だ。全国一律に、(一時金を)例えば5万円上げると(地域の活性化に)非常に役立つ」と主張。これに対し舛添厚労相は、「努力する方向は、(一時金を現在の)35万円からいかに上げるかだ」と述べ、全国一律による引き上げに必要な予算確保に向け、財務当局と折衝すると説明した。
http://www.excite.co.jp/News/society/20081128/Cabrain_19382.html

厚労省のウェブサイトには提出資料もアップされていて、それによると麻生総理が9月29日に所信表明演説でこんなことを言っていたようです(記事は舛添厚労相となっていますが、麻生首相のようです)。

…暮らしの安心について、申し上げます。

 救急医療のたらい回し、産科や小児科の医師不足、妊娠や出産費用の不安、介護の人手不足、保育所の不足。いつ自分を襲うやもしれぬ問題であります。日々不安を感じながら暮らさなくてはならないとすれば、こんな憂鬱なことはありません。わたしは、これら不安を我が事として、一日も早く解消するよう努めます。
http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2008/09/29housin.html

さて、舛添厚労省自身も8月の会見で「特に例えば、東京ですと50万近く費用が掛かると思います」と発言しているくらいで、出産費用には地域差があり、しかも「(費用面でも)安心して出産できる」という趣旨で金額改訂を行うのであれば、これは当然実費補填の考え方で地域に応じて差があっていいはずです。それが効率的な税金の使い方と申せましょう。
ところが、「「都道府県ごとの設定は地域格差を生む」(藤原淳・日医常任理事)」という不可解な理由で反対論が相次いだとのこと。これはもう、私のように性格がヒネた人間には、「格差=悪」という風潮に便乗し、高きに合わせることで間接的に医療機関等の実入りが増えることを期待しているとしか思えません。さらに「全国一律に、(一時金を)例えば5万円上げると(地域の活性化に)非常に役立つ」となると、これはもはや出産の安心という範疇を大幅に逸脱して、定額給付金みたいなバラマキ的景気対策の域に入ってきてしまっています。いくらなんでもそこまで言いますかねえ、って、これって「日本産科婦人科学会理事長」の発言ですぜ。医学の学会のトップが医療関連費用で景気対策を求めるとは…いやはや。これに安易に同調してしまう舛添氏もいかがなもんかと思います。いっぽう、「医療機関に直接一時金を支払う形に対しては、「公立病院の(費用)未払いを防止する意味で重要」(岡本喜代子・日本助産師会会長)など前向きな意見」というのは、ずいぶんご都合主義だなあという印象もなくはありませんが、まあこれは現場の苦労がしのばれて情においてもうなずけますし、制度の趣旨にそった利用の確保という意味でも有意義だとは思いますが…。
ちなみに、25日のエントリで不明だと申し上げた参加者ですが、記事で紹介されていたのはほかに対馬忠明・健保連専務理事、河内山哲朗・全国市長会国民健康保険対策特別委員会委員長、吉村泰典・日本産科婦人科学会理事長の3人です。そりゃ、こういう関係者を集めれば増額に賛成の意見しかでてきませんわな。健保連にしても、公費というのが保険料財源ではなく一般財源によるのであれば(「必要な予算確保に向け、財務当局と折衝する」というのはそういうことでしょう)、当面反対する理由はないわけで。
まあ、妊娠・出産に対する支援の強化については少子化対策という観点からも一定の必要性はあるでしょうが、それにしてもなんか妙な議論だなあという印象です。