同情するのはわかるけど…

 本日の産経新聞の社説(「主張」)は、採用内定取り消しを取り上げています。

 景気悪化による企業のリストラで、来春卒業予定学生の採用内定取り消しが相次いでいる。懸命な就職活動の末に内定した企業から、突然、取り消しの通知が来た学生らの戸惑い、怒りは相当なものだろう。
 雇用環境がいかに厳しいからといって、企業の都合で安易に学生の夢を奪うことは許されまい。
 厚生労働省の緊急調査によると、内定取り消しは全国で331人に上る。内定取り消しを行った企業は計87社で、内訳は大学生が302人、高校生が29人だった。内定取り消しの理由は、倒産などの経営破綻(はたん)が116人、経営悪化が212人などである。
 問題となるのは、経営悪化が内定取り消しの理由にされている点である。最高裁判例によれば採用内定は、たとえ文書を取り交わさなくても労働契約が成立したと見なされ、契約解除には合理的な理由が必要とされる。
 倒産なら取り消しもやむを得ないが、経営悪化は合理的な理由に該当するだろうか。舛添要一厚生労働相労働基準法に違反する可能性が高いとの判断だ。
(平成20年12月1日付産経新聞朝刊から、以下同じ)

「経営悪化は合理的な理由に該当するだろうか。」ということですが、以前のエントリでも紹介したとおり、場合によりけりでしょう。採用内定は今年の4〜5月くらいが多かったでしょうが、はたしてその時期にこの状況が予測しえたかというと、なかなか悩ましいところです。それはそれとして、「舛添要一厚生労働相労働基準法に違反する可能性が高いとの判断だ」そうですが、これは違うでしょう。現在、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇を無効と定めているのは労働契約法であって労働基準法ではありません(労働契約法制定前は労働基準法にあった定めではあるのですが)。また、細かい話ですが内定取り消し=解雇と一律にいえるかどうかにも議論がありますし、内定取り消しのリーディングケースである大日本印刷事件や電電公社近畿電通局事件などでは「解雇権の濫用」ではなく「解約権の濫用」という表現を用いているなど、合理性を欠く内定取り消しが労働契約法に定める解雇権濫用にダイレクトに該当するのかどうかは微妙かもしれません。なお、ざっと探した限りでは舛添厚労相が内定取り消しが労基法違反と述べたという裏付けはとれませんでしたので、産経の論説委員の勘違いかもしれません。

 それぞれの企業の雇用カットが収益改善の合理的な選択だとしても、社会全体で見れば購買力の低下を招き、内需を減らすという悪循環に陥りかねない。
 忘れてならないのは労働者は景気回復のカギを握る消費者でもあるという視点だ。政府は緊急雇用対策本部を設置し、失業者らの早期再就職支援を始めた。企業も安易な雇用調整は結局、自らの首を絞めると思いを致すべきだ。そうなっては元も子もなかろう。

いやまあそりゃそうかもしれませんけれど、しかし企業としても仕事もないのに人を雇うわけにはいきませんし、赤字を増やしても賃金を上げるというわけにもまいらないわけで。もちろん、企業としても価格引き下げや新商品投入などで需要=売上を増やす努力は当然するわけですが、経済動向によっては企業の努力だけではいかんともしがたい状況だってあるわけで、そこはやっぱり政府の出番でしょう。購買力低下が問題なら購買力を上げる、需要不足が問題なら需要を増やすための政策が考えられなければなりません。定額給付金をバラ撒いたり公共事業をバラ撒いたりするのがいいかどうかといった手法の問題はもちろんあるでしょうが、限られた財源で購買力や需要を高める政策努力こそが必要なはずで、緊急雇用対策本部の設置や早期再就職支援で具体的にどういうことをするにせよ、仕事を増やさなければ雇用も増えにくいでしょう。まあ、ワークシェアリングのようなことを考えれば仕事が増えなくても雇用が増えるかもしれませんが、それでは購買力はなかなか高まらないわけで。
いずれにしても、社説もいうように「安易な」雇用調整はいろいろな意味で好ましくないわけで、企業に雇用確保努力が求められる局面であることは間違いなさそうです。