中国の労働力ミスマッチ

北京五輪もたけなわの中国ネタです。日経夕刊の「ニュースの理由」というコラムです。「村山宏」との署名があります。

 中国南部広東省経済特区、深土川市は七月から月間の最低賃金を一七・六%増の千元(約一万六千円)に引き上げた。消費者物価上昇率の倍以上の上げ幅だ。輸出額の約三割を担う広東省には家電など組み立て産業が集積する。数年前まで企業は農村部から労働者を集め、月五百元程度で生産に従事させていた。
 だが、今や最低賃金の二、三倍を出さなければ優秀な労働者を確保できなくなった。輸出減速の影響で工場閉鎖も伝えられているが、「出稼ぎ労働者の総数が限られており、労働需給がなかなか緩和しない」…という。…人件費高騰を受け中国企業は生産拠点を海外の発展途上国に移し始めた。
 空調機などの珠海格力電器はブラジル、パキスタンに続き、今春にはベトナムに工場を新設。自動車の吉利汽車インドネシアでのノックダウン生産を決めた。いずれの地域も若年の労働者を獲得しやすく、中国で組み立てて輸出するよりも有利と判断したようだ。
 …途上国は農村に余剰労働力があふれている。この低賃金の労働力が工業部門に移ることで高い成長を実現するが、余剰労働力がなくなれば賃金は上昇に転じる。…農村にまだ一億人の余剰労働力があるが、半数は四十歳以上…企業が求める若年労働者の不足…一方、都市部では高学歴の若年労働者の余剰感が強まっている。教育省によると、今年の大卒者は五百五十九万人。既卒で就職に失敗した七、八十万人を加えると、六百万人以上が就職予定だが、二割は就職できないともいわれている。
(平成20年8月14日付日本経済新聞夕刊から)

かつては「中国の農村部には膨大な労働力が存在し、韓国・台湾などでみられたような賃金上昇は向こう数十年は発生しない」などと言われていたように記憶しますが、そんなこともなかったようです。なるほど、たしかに年齢構成による年齢ミスマッチの指摘はいかにもありそうな話ですし、進学率はまだあまり高くないとしても、やはり高学歴化は賃金水準を上げるだけでなく、そもそも高学歴者が製造業の現場で就労するよりは失業を選ぶということも増加しているのではないでしょうか。記事は中国国内の経済問題に注目していますが、企業の海外投資行動についても、単に賃金の安さだけに着目した海外進出には限界があるということも、この現象は示しているのではないでしょうか。まあ、記事にもあるようにまだまだ世界には中国よりさらに低賃金の国もありますから、この投資モデルもまだしばらくは通用しそうですが…。